雨宿り


 パシャパシャと水音をたてながら、二人の男女が民家の軒下へ雨を逃れてやって来た。
「マリア、大丈夫?少し濡れちゃったかな?」
「いえ…私は、大丈夫です。すみません隊長…。せっかくの外出着を濡れさせてしまって…。」
「かまわないさ。どうせ滅多に着ないやつだし。」

 思いの外早く紐育から帰ってこられたマリアと、1年ぶりのデート。さくらやアイリスの追及をやっとの思いでかわし、ようやく二人きりで出てこれたというのに、6月のこの時期、天気は変わりやすい。朝帝劇を出るときには晴れていたのに、今は暗雲が立ちこめていた。

「ふう。まったく、朝の天気予報じゃ今日は一日晴れるって言ってたのに…。」
「梅雨のこの時期に油断したのが不味かったですね。傘を持って来るべきでし…。」

 クシュン

 た、とまで言えず、マリアは小さくくしゃみをした。雨に濡れて、身体が冷えてしまったのだろう。

「大丈夫かい?冷えちゃったかな。仕方ない、今日はもう帝劇に帰ろう。こんなところでマリアに風邪を引かすわけには行かないからね。」
「え…でも……。」

 珍しくマリアが大神の言葉に躊躇した。本当なら今日はまだこれからゆっくり とバーに飲みに行くはずだったのだ。それに、マリアは大神が今日一日空けるために、昨日まで毎日遅くまで仕事を片づけていたことを知っている。何より、マリア自身が久しぶりの大神との二人きりの時間を手放したくなかったのだ。

「…俺も、もっとマリアと二人きりで居たいけどね。でも、これからは毎日同じ屋根の下で暮らすんだ。また次の機会はいくらでもあるさ。」
「…はい。」

 少しうつむき加減で、残念そうに返事をするマリアの頬に、大神がそっと手をかける。

「…マリア。」

 ゆっくりと近づいてくる大神の顔に、マリアは目を閉じた。自分を抱きしめる大神のぬくもりの他は、降り続ける雨の音しか聞こえなかった。


 その後、マリアをかばい、雨に濡れながらもどうにか帝劇に帰り着いた大神は 、先にお風呂をマリアに譲り、自分はさくらとアイリスにつかまってしまった。必死で弁解している間に身体が冷え切ってしまい、結局風邪を引いてしまった。だが、マリアが付きっきりで看病をしてくれたので、これはこれで幸せな大神であった。



END  

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