Congratulation? 「婚約、おめでとう!!」 7人の声が一斉にお祝いの言葉を発した。 ここは大帝国劇場の楽屋の中。 巴里から帰国した大神とマリアの結婚が決まり、みんなの提案で今日ここで婚約記念パーティを開くことになったのだ。 テーブルの中央には大きな花瓶に色とりどりの花が飾ってありご馳走が並べられ、壁のいたるところに綺麗な飾りがついていた。 マリアはうっすらと頬を染めみんなの祝福に心から感動していた。 「ありがとうみんな。とっても嬉しいわ」 「へへ、やっとここまでこぎつけたなマリア。隊長があっちに行った時は内心ヒヤヒヤしたんじゃねえか?」 カンナがからかうように言った。 「そんなことないわよ。彼を信じてたから」 「日本のオトコ信じるなんて甘いデ〜ス!マリアさん、本当にいいんデスか?」 織姫が例の口調でマリアを探るような目で見て言った。 「隊長が信じるに値する人だという事はあなたが一番よくわかっているはずじゃないの?織姫」 マリアは火車との戦いの中、大神が危険をおかして織姫と父親を助けた事をほのめかすように言った。 マリアにやりこめられ言葉をぐっと詰まらせる織姫。 「まあまあ、今日はおめでたい日や。それぐらいにしとかなあかん。ところでマリアはん、ウチ昨晩徹夜してマリアはんのために心を込めてお祝いのプレゼントを作ったんや。受け取ってくれるやろ?」 紅蘭がニコニコと嬉しそうにマリアに近付いて言った。 「ま‥まあ それはどうもありがとう…」 心を込めてと言われてはさすがに嫌だとは言えず、マリアはゴソゴソと袋から銀色の四角い箱を取り出す紅蘭を不安げに見つめた。 「じゃ〜ん!!名付けて めでたいくんや。これを持ってな、このスイッチを押すと一日中お祝いと激励の言葉が流れて幸せな気分になるんや。試してみてくれへんか?マリアはん」 マリアはこわごわ銀の箱を受け取ると深呼吸して震える指でスイッチを押した。 すると箱の上部のふたがパカッと開き、紅蘭に似た小さな人形がでてきておめでとうさん、がんばりや〜と旗を振って声援を送り始めた。 マリアはその可愛らしさに思わず微笑んでしばらく眺めていたが人形の声が徐々に早くなり黒煙がもくもく吹き出してまもなくお決まりの爆発が起こった。 顔中、黒いすすだらけにしてケホケホとマリアはむせた。 「あちゃあ〜おっかしいなあ、ちぃとばかり早すぎたわ。かんにんなマリアはん」 屈託のない顔でへらへら笑う紅蘭にマリアは文句を言いたいところをぐっとこらえ「大した事ないわよ」と余裕の笑みを見せた。 その時さくらがしんみりした口調でマリアの方を上目づかいに見ながら静かに喋り始めた。 「大神さんと出会ったのあたしが最初だったんですよ。大神さんたらあたしのことを知りたいとか何回も抱き締めてあたしに気をもたせるようなそぶりを見せてその気になってたのに‥やっぱり大きな胸にはかなわなかったんですね」 そういってさくらは目の幅ナミダを流してしくしく泣き出した。 「さ…さくら…」 複雑な心情でマリアはかけるべき言葉も見つからずただ黙っていた。 「さくらぁ泣かないでよ。アイリスだってずっとお兄ちゃんの恋人だと思ってたのにマリアに取られちゃったんだよ。キスまでした仲なのに‥」 アイリスはさくらのそばに駆け寄って一緒においおい泣き始める。 そんな二人を尻目にすみれはフンと鼻をならしてズイッとマリアの前に出てくると上から下までジロジロと遠慮なく眺めてぶつぶつ文句を言い始めた。 「それにしてもですわ。トップスタアのこのわたくしをさしおいてどうしてマリアさんをお選びになったのかしら。わたくしだって決してマリアさんに劣るとは思えませんけど‥」 すみれに真っ正面から蛇のように睨まれてマリアはさあ、とあいまいに言葉を濁し目を反らせた。 「決まってんじゃねえか。お前のその性格だよ」 カンナはぼそっとつぶやくとマリアの肩をバンと叩き「いいよな、マリアは。隊長を独り占めできて。でもあたいは二人を応援するぜ」とウインクしてそう言った。 叩かれた肩がずきっと痛んで身体中ビリビリしたがマリアは無理に微笑んでありがとう、とお礼を言った。 それまでさめざめと泣いていたさくらがキッと顔を上げ「どうしてもあたし納得いきません。マリアさん、勝負してくださいっ!」そう言って荒鷹をとりだすとマリアに向かって剣を構えた。 「ち‥ちょっとさくら、気を落ち着けて‥ね?」 マリアは慌ててさくらをなだめすかす。 「まあまあさくら、みーんな同じ気持ちだからよ。この際マリアにはあたいたちのどうにもおさまらないこの思いを受けて貰わなきゃな」 カンナが目をギラギラさせて不気味に笑いながら言った。 「まあ、いいですわね。わたくし一度でいいからいつもツンととりすましたその顔を引き剥がして苦痛に歪むところを見てみたかったんですの」 すみれは妖しい目つきでマリアをなめるように見つめる。 「それは面白いなあ。ウチもぜひ見てみたいで」 みんなの雰囲気がだんだんとおかしな方向に変わってきたのを感じ、マリアは少し青い顔をしてそろそろと後ずさった。 「あ‥あのみんな。どうしちゃったの?今日は私と隊長をお祝いしてくれる会のはずよ‥ね?」 カンナが首を振って答えた。 「いんや、ちょーっと違うぜ。自分一人だけ幸せになろうとするマリアをみんなでしばこう会ってとこかな」 尋常じゃない目つきでみんながじりじりと寄って来て、完全に取り囲まれ逃げ場を失ったマリアは救いを求めるようにドアの方をちら、と見て大神が早く来てくれないかと一心に祈った。 それを察してかカンナがにやにや笑いながらマリアの耳元に囁いた。 「隊長を待ってるんだったら諦めた方がいいぜ。」 「えっ?」 マリアはイヤな予感がして胸がドキドキと早鐘をうちはじめた。 カンナが続けて言った。 「隊長はさっきあたいがボコボコにしてさくらが剣で服を切り刻んで薔薇組の部屋に置いてきたからな。今頃はあの三人組にたっぷり可愛がられているはずだぜ。何せ二人の結婚が決まったの知ってからだいぶヤケになってたからなあ。思いが叶ってあいつらもさぞかし喜んでいるだろうよ」 カンナはしみじみとそう言い自己満足に浸った。 さくらがうふふと無邪気に笑って「そうですよね。きっとあーんなことやこーんなことされて大神さんかわいそう」 と言葉とはうらはらに楽しそうに言った。 「あ‥あなたたち何てことを!!」 マリアは頭にカーッと血が昇り、思わず懐に手をいれたが何故かいつもの感触が感じられなかった。 「…これを探しているの?マリア」 レニがマリアの愛銃を片手でくるくると回してもてあそびながら訊いた。 「い…いつの間に‥」 「さっきの爆発の時ボクが抜き取っておいた」 レニの早業に驚きながらもマリアは自分のうかつさを呪った。 カンナがマリアを壁際に追いつめ、その細い両手首をぎゅっとつかんで上にもちあげて顔を近づける。 「へへ‥銃がなけりゃこっちのもんだぜ…さあ、どう料理してやろうか。まずは隊長と同じく裸にひん剥いてロープで縛りあげて吊してみるってのはどうだ?」 「まあ、それはカンナさんにしては素敵なアイデアですこと。それならわたくしは腕によりをかけてマリアさんの身体に綺麗なお花を活けてさしあげますわ。きっと素晴らしい芸術作品になりましてよ。オーッホッホッホ」とすみれ。 「それとってもナイスデ〜ス。それならワタシはパパを呼んで絵に描いてもらいマ〜ス。コンクールの金賞まちがいありまセ〜ン!」と織姫。 「いやあ 嬉しいなあ。今日はとことんマリアはんにウチの発明品の実験台になって貰うで。今度こそそのスタイルの秘密を徹底的に解明したる。こらたまらんわ」 紅蘭はメガネをキラキラ反射させて妖しげな道具を取り出し始めた。 「アイリスも見たい 見たーい!」 「だめよ、アイリス。ここから先は18歳以下は禁止なの。レニとアイリスは別のお部屋で待っててね。あとであたしが細かく詳しく教えてあげるから。」 さくらが諭すように言った。 「え〜っイヤだよ。アイリスもう子供じゃないモン。立派なレディだよ」 レニは黙って座布団をめくり、前もって隠してあったロープを取り出してカンナに渡し口をとがらせていやがるアイリスの手を引っ張って楽屋を出た。 みんながそれぞれ勝手な事を言ってるのを聞いてマリアは顔が真っ青になり目をうるうるさせて哀願した。 「お‥お願い かんにんして…」 カンナはマリアの言葉を無視して「さあて。始めるとするか」とかけ声をかけてマリアの服に手をかける。 みんなが熱い視線を送り固唾をのんで見守るなか、マリアは目をつぶって奇跡が起こってくれるのをただひたすらに願っていた。 その時―乱暴にドアが開かれ、かえでが怒りの形相でズカズカ楽屋に入ってきた。 「あなたたち何やってるの!?こんな事をして恥ずかしくないの?気持ちはわかるけど副司令としては黙って見過ごすわけにはいかないわ。今回のことは米田支配人には特別に報告しないからみんな少し反省なさい」 かえでにこんこんと説教されてみんなはしゅんとなり、カンナはチェッと小さく舌打ちをしてしぶしぶマリアを解放した。 マリアは安堵感でいっぱいになり、かえでの肩にしがみついて大きなため息をついた。 「まあ、可哀相なマリア。顔をこんなにすすだらけにして‥さあ、私の部屋にいらっしゃい。綺麗にしてあげる。」 かえではポケットからハンカチを取り出すとマリアの顔をふきふきして手を引っ張り二階へと強引に連れていこうとする。 「あっ、待って下さいかえでさん。隊長を助けないと…」 「大丈夫よ。さっき加山君が向かったからそれは安心して」 かえではそう言うと自分の部屋にマリアを連れ込み後ろ手でガチャッと鍵を閉めた。 「かえでさん?」 マリアはかえでの行動の真意を計りかねて翡翠の瞳をまばたきさせた。 かえではふふっと笑うと静かに話し始めた。 「私もね、大神君のこと気に入ってたのよ。何度もモーションかけたけどダメだったわ。よっぽどあなたのことが好きだったのね。おまけに影が薄いだとか姉さんみたいな色気がないとかさんざん言いたい放題言ってくれちゃって。仕方がないから加山君で手を打ったけど、あなたと私のどこにそんな違いがあるのかしら?やっぱりこの大きな胸かしらね。とても興味があるわ。…確かめさせてもらってもいいかしら」 かえではマリアにちかづいてさわさわと服の上から妖しげな手つきでマリアの胸をさすり始めた。 「か‥かえでさんっ!やめて下さい!!」 マリアは予期せぬ突然豹変したかえでの行動に目眩を感じながらも必死で魔の手から逃げようとそろそろと壁伝いに歩き出した。 「あら、そんなにいやがらなくてもいいじゃない。女同士も新たな発見があっていいかもよ。やみつきになるかもしれないし‥ね?」 「ぜ…絶対になりませんっ!」 かえではグイッとマリアの手を掴みベッドに押し倒して囁いた。 「あんまり暴れると私の秘技をお見舞いするわよ。痛い目をみたくなかったら私の言うことを素直に聞きなさい」 マリアはやっと逃れた罠に再び陥ったことでパニックになり思わず「隊長」とつぶやいていた。 かえではニコニコ笑うと「大神君も私を怒らせるようなことさえしなかったら助けてあげたのに、自業自得だわ。今頃は加山君も混じって5人で楽しんでるかもね。あまりみたくない光景だけど」と言った。 その言葉を聞いてマリアは身体中の力が抜けていった。 かえでは満足そうな顔をすると舌なめずりをして微笑んだ。 「さあ、今日は思う存分楽しみましょうね、マリア」 その日、大帝国劇場では大神とマリアの悲しい叫び声がいつまでもいつまでも続いていましたとさ。 その後、二人が幸せな結婚生活を送れたかどうかは……謎である。
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