苺
帝劇一階・厨房 そこは甘い香りが立ち込めていた。 マリアが料理をしているのだが、今回はいつもとは違いお菓子作りである。 「…こんなものかしら?」 マリア自身甘いものはあまり好きではないのだが、この間、アイリスにせがまれたストロベリータルトを作っている最中だった。 本来ならイチゴを甘露煮するのだが、時間がかかってしまうので半分に切ったイチゴを最後にカスタードの上に敷き詰めていくという簡単なものになってしまった。 「あら…。」 並べてている途中にうっかりイチゴを落としてしまった。 しゃがんで拾おうとすると、そのとき後ろから手が伸びてきた。 その手は後ろからマリアの胸を弄りはじめる。 「きゃっ」 いきなりのことと、されていることにマリアは小さな悲鳴を上げる。 こんなことをするのは一人しかいない。 そう考えているうちに耳に息を吹きかけられる。 「ひゃうっ」 軽く喘ぐや否や、強く抱きしめられる。 …甘い香りがする。タルトとは違った甘い香り。 またトワレを変えたのだろうか…いつもとは違う香りだ。 「…どうしたの?いつものトワレではないようだけど…。」 「ちょっと変えてみたんです。どうですか?」 「ええ…。とても、好きよ。」 「やっぱりそうですか?あたしもいいと思ったんです、これ。」 マリアの思い人、さくらは優しく微笑む。 「んっ……」 優しくとろけるようなキス。 何度も唇同士で互いの唇を突き、舌を絡めあう。 しかし、こんなところでこんなことをしているのを誰かに見られてしまったら大変だ。 というか、大変どころの騒ぎではない。 でも、さくらはこういう事を誰にも見つからないようにするのが得意だ。 おそらく誰にもばれないと分かっていてしているのだろう。 頭の中にあった不安はさくらへの信頼の自己完結ですんでしまい、キスという快楽に溺れるのだった。 さくらはキスをしながらマリアの腰に自分の腰を押し付けてきている。 マリアはさくらを下から抱きしめているので、マリアとさくらの秘所が重なる形になっている。 「はぁ…っん…こ、こんなところで、本当…に…」 「いいのかってことですか…?」 さくらが耳元で囁く。それがマリアにとってさらに快楽を誘うものになる。 「ん…っ…」 「シチュエーションは大事にしないと…。」 「服が…汚れてしまうわ…それに…。」 「あら…?ふふっ…そんなにあたしに裸を見てほしいんですか?」 「ち、ちがっ…あぁ…んっ」 マリアが息も絶え絶えに言う。すると、さくらは腰を動かすのをやめ、マリアの秘所に指を滑らせる。 「同時って言うのもいいけど、やっぱり…ね?マリアさん…」 そういうやいなや、指が優しく中でうごめき始める。 「はっ…いやぁぁんっ」 「ふふっ…」 「やぁん…ひゃぅぅ…」 さくらは一方的にマリアを攻め立てるのが好きだ。 なによりもあの「眼」がそれをよりいっそう思わせる。 あれを見ると抵抗できなくなってしまう。 しかしその反面、行為そのものはとても優しくとろけるようなものだ。 その優しさがマリアを包み込んで放さない。 ゆえにマリアはさくらにメンタル的なものも体も全て委ねているのだった。 「今、気付いたけど、お台所って衛生的に良くないんじゃないですか?」 最中に突然さくらがそんなことを言う。しかし、マリアへの攻めを止めているわけではない。 「はぁ…だから、私さっきから言ってるじゃない…。」 「お料理の途中だったみたいだし…。悪いことしちゃいました?」 「んんっ…そういうわけでは…ないけれど…。」 「それじゃあ目的も果たしたことだし、場所移動します?」 「目的って……」 「キッチンプレイ。」 「……貴方って子は…。」 「あらぁ?なにかあります?」 お決まりの小悪魔顔になり、指の動きを激しくする。 「ひぅっ…やあぁんっ…」 「あら、かわい。…でも、このままじゃあんまりよくないですよねぇ…。」 そういうと指の動きを止める。 「…あっ…」 マリアが残念そうな声をあげる。 自分の出した声に気付き、恥じらい、顔を赤らめる。 「――残念だけど、この場所ではここまでです。…別の意味で大変になりますよ。早く、服整えてください。」 さくらが何かに気付いたように顔を上げる。さっきまでとは違い多少厳しい顔をしている。 「あっ…ええ。」 「早く…!あたしがいいって言ったらイチゴ拾ってくださいね。」 「わかったわ…。」 「マ〜リアっ」 アイリスだ。 さくらはアイリスがこちらにくることを気付いていたのだ。 野性的勘はものすごく働いているようである。 「…いいです。」 さくらが小声で合図する。 「なにしてるのー?あ、さくらも一緒だ〜。」 「あら、アイリス。どうしたの?」 「なんかねぇ、あま〜い香りがしたから、きっとマリアが何か作ってるって思ったの。」 「そうなの?でも、匂いにつられるなんてカンナみたいね。」 マリアが必死の演技で答える。 さくらよりも先輩のはずなのだが、やはり先程までのことが効いているため、気付かれないほどだが多少無理がある。 「えへへー、そうかも。そういえば、さくらは何してるの?」 「マリアさんがお菓子作るの手伝ってたのよ。」 さすがは女優。見事なものだ。 さくらは比較的余裕の演技で、手を洗いながらアイリスに答える。 その手から落ちている雫が先ほどの行為の産物だと思うと、マリアは頬を赤く染める。 「――さくらに手伝ってもらったから思ったよりも早く終わりそうよ。」 「イチゴ?」 マリアの頬が紅潮していることには気付かず、アイリスはマリアの手にあるものに目を向ける。 「そうよ。最後の仕上げをしてたのだけどうっかり落としてしまったの。」 そういうとごみ箱にイチゴを捨てる。 「そっかー。ねね、マリア、なに作ってるの??」 「ストロベリータルトよ。」 「あっ!それこの間アイリスがお願いしたものでしょ?やったー!食べてもいい?」 「だめよ、冷ましてからじゃないと…。お茶の時間にみんなで食べましょ?」 「うん…。分かった!それじゃあ、アイリス楽しみにしてるねっ。あ、レニにも教えなきゃ!」 「それじゃあ、3時にサロンに持っていくわね。」 「うんっ!またあとでね、マリアっ!」 「ええ。」 『……。』 嵐が過ぎ去った。 「…はぁ……。」 「おつかれさまです。」 気を張り詰めていたのが一気にとけるのがわかる。 それでも蒸気冷蔵庫にタルトを入れるのを忘れない。マリアの生真面目さが伺える。 「それじゃ、今度こそ場所移動しましょうか?って、あたしたち場所移動してばっかりですよねぇ…。」 「そうね…。」 「まったく…アイリスには悪いけど、とんだ邪魔だったわっ。気分が萎えちゃったじゃない…。」 さくらが軽く頬を膨らませる。こんなところがあの「眼」とミスマッチでかわいらしい。 「…さ、さくら…。」 「あたしの予定ではあのあと、歩けるかどうかで部屋連れて行くはずだったのにっ…あぁっ、もったいない…。」 ほぅ…と息をつき頬を染めるさくら。ちょっとトリップしている。 「…そんなこと考えてたの…?」 「そうですっ。 だって、ああいう事した後って絶対マリアさん足元ふらふらじゃないですかっ。まあ…そこがいいし、かわいいんだけど。」 「えぇっ?何言ってるの!?」 「んもう!部屋行きますよっ。えっちのし直しと気分の立て直しっ。」 「…あっ、待って…!」 「もう…アイリスったら…。」 部屋に入ってもさくらはまだぶつくさ言っている。 「もういいじゃない…。」 「こうなったら、徹底的にいきますよ。」 さくらはやけに意気込んでいる。 と、同時に瞬時とも言うべき速さでマリアの服を脱がし自分の服を脱ぎつつ、マリアの胸を弄り始める。 「…あはぁぁっ…どうして、その矛先が私なの…っ…?…んんっ…」 それを遮るようにさくらはマリアに唇を重ねる。 「んぅ…はぁ…」 「ん…」 長いキスが終わりようやく唇を離す。 「あら…?こんなにびしょびしょにしちゃって…。」 インナーの上からでも分かるほど、秘所がしとどに濡れてしまっている。 「…やっ……そんなこと言ったら嫌…」 マリアは羞恥で顔が真っ赤になってしまう。 さくらはマリアの恥ずかしそうな顔を見て微笑むと、体制を変える。 下世話な言い方をすると69と呼ばれるものである。 さくらはマリアの秘所に顔を寄せると、いちばん敏感な場所を舐め回す。 びくんっとマリアの体が震える。 「あぁぁんっ…駄目…っ…ふぁあああっ…さくら…ぁっ…」 マリアの口から自分の名前が紡がれ、していることに喘ぐ。さくらに極上の心地よさが訪れる。 「…好きです…マリアさん…もっと、もっと聞かせて…貴方の声…。」 そう微笑むとさらに秘所攻め立てる。糸を引き、淫靡な音が奏でられる。 「やぁああっっ…ひゃぅぅっ…私…もう…」 マリアの限界が近いということを悟ったさくらは、意地悪をしたくなり秘所から舌を離す。 「はぁ…くふぅ……どうし…て……あと…ちょっと…で」 「あとちょっとで…なんです?」 「…意地悪しないで…お願い…」 あまりにも切なそうな顔をするのでいじめるのをやめ、先程よりもさらに強く秘所を舐め回す。 「あぁぁあああん…」 頂点に達し、マリアはそのままぐったりと崩れた。 「……。」 マリアが果てたと分かると、唇に優しくキスをしてさくらも自分の体をマリアの隣りに横たえた。 帝劇の大時計が3時を告げる。 「ん…。」 さくらが時計の音に気付き、目を覚ます。 その横ではマリアが寝息を立てている。 「もう3時じゃない!マリアさん、起きて…!」 「…んんっ…あっ…おはよ…。」 マリアは先程のがよっぽど効いて熟睡していたのか、まだ寝ぼけている。 「ちょっと、寝ぼけてる場合じゃありませんよ!3時です!みんながサロンでまってます。」 「えっ…えぇっ!?もうこんな時間!?」 さくらの檄にマリアは完全に目を覚ます。 「早く着替えてください!あたしはあとから行きますから、まずマリアさんが先に出て!タルト持っていくんでしょう?」 「そうだったわ…それじゃ先行くわね!」 慌てて部屋を出て行くマリアをさくらは自分も服を着なおしながら見つめていた。 「ふぅ…今度から、抑えるべきかなぁ…。」 今回の行為についてさりげなく反省する。 次回からそれが改善されるかどうかは妖しいところだが。 「さ、あたしも行こっかな?」 そういってベッドから立ち上がり、サロンへと足を運ばせるのだった。
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