帰郷?
「いやあ、マリア、ロシアは寒いねえ」
「隊長、あんまりくっつかないでください」
「無理だよ、こんなちいさな橇なんだから。うーっさむさむ。早く宿であったまろう」
「ちゃんと別の部屋をとってくださいね。また私の部屋に忍び込んできたりしたら、こんどこそエンフィールドをお見舞いしますよ」
「そりゃないよマリア。ロケットにもお別れしたし、男女が二人っきりで旅行してるんだよ。お約束の展開じゃないか」
「私のトランクに隠れて無理矢理ついてきたくせに…帰ったら米田司令に厳重に注意してもらいますからね」
「ひどいなあ。だいたい君の態度のどこが俺とラブラブなんだ?」
「しょうがないじゃないですか。全員ごきげんななめだった中で、私が一番上になっちゃったんですから。そうでなきゃ、誰が…」
「みんな冷たいよなあ。この俺のどこがいけないんだろうな」
「何いってるんですか。攻撃範囲は覚えないし、立ち位置は間違えるし、気合いはため忘れるし、必殺技は無駄遣いするし…」
「まあ、細かいこと言わないでさ。こうして叉丹にも勝てたんだし」
「自分は一番後ろに隠れて待機ばかりしてたくせに…」
「しょうがないだろ、俺が死んだらおしまいなんだから。そもそも君たちこそ俺をおいてどんどん先に行くから……」
「ああっ、た、隊長、前を…っ!」
「うわっ!なぜ突然崖が…!」
ガラガラガラ…
「隊長っ!大丈夫ですか?」
「ああっ、このとおりピンピンしてるよ」
「ちっ…」
「え?」
「いえ、なんでもないです。それより、困りましたね…とても登れそうにありません」
「な…なんとかならないの?」
「もうすぐ日が落ちます…そうしたら気温はさらに下がります。このままでは凍死はまぬがれません」
「そ、それはいやだぞ!どうしようマリア〜!」
「とりあえず雪洞を掘りましょう」
「いや、俺も今そう言おうと思ってたんだ。…おおっ、こんなところに横穴が空いてるぞ。天の助けだ!これも俺の人徳のなせるわざだろう」
「…一生言ってなさい…」
「やっぱり寒いなあ…死にそうだ」
「外よりはましでしょう」
「………」
「………」
「マリアっ!眠っちゃ駄目だっ!」ビシバシ。
「あ…私ったら…」
「危なかった…眠ったら死ぬぞ!しっかりしろ!」
「は…はい、ありがとうございます…。ちょっと鼻血がでましたけど、助かりました」
「………」
「隊長っ!眠っちゃ駄目ですっ!」どかばきっ。
「は…お、俺はいつの間に…」
「大丈夫ですか、隊長」
「あ、ああ…。歯が2〜3本折れたけど、どうにか…」
「………」
「何がなんでも眠らないぞ…」
「わ、私だって…。見張ってても無駄ですよ」
「そうだ、こういう時はだな、裸になってお互いの体温で暖めあうんだ。それしか助かる方法はない!」
「いやです」
「そんなきっぱり言うなっ!凍え死にたいのか?!」
「その方がなんぼかマシです」
「し…、下心なんかないぞ!俺は純粋に生存の可能性をだな」
「信用できません。さっきお墓の前でだって、私がこけそうになった隙をついて、いきなり唇を…」
「あ、あれはたまたま偶然だって。幸せな…もとい不幸な事故だよ。はっはっは」
「きっと私が溺れそうになっても『手を握って泳いでやるから服を脱げ』とか言うんでしょう。それで人工呼吸とか言って無理矢理…」
「そ、そんな遠い未来の話は知らん!大体失礼だぞマリア。仮にも隊長の俺に向かって」
「…そ…それもそうですね…すみません」
「俺がそんな助平な男だと思ってるのか!?そりゃあ俺は風呂場で体が勝手に動いて花組全員のみならずあやめさんまでシャワーシーンをのぞいたし、さくらくんが医療ポッドに入ってた時も、あらゆる角度からじっくり見させてもらったが」
「説得力ないじゃないですかっ!」
「まあ過去は水に流してだな、言葉のつめたい人は体があったかいっていうし」
「なんかかなり違いますっ!」
ぐるるるる…
「な、なんだこのうなり声は」
「く、熊ですっ!この穴は熊の冬眠用の穴だったんですよ!」
「ああっ都合良く横穴があるなんて、おかしいと思ったんだよ俺」
「………あなたってひとは…」
「頑張ってねマリア。俺はここで見守っててあげるから」
「どこまで腐ってるんですかっ!隊長こそ戦ったらどうなんです」
「男の勇気はやさしさだ!そ、そうだ、君が食べられている間に俺は逃げる。そして一生君の貴重な犠牲を忘れずに…」
「やっぱりあなたは隊長失格ですっ!」
「そ、そんなことを言ってる間に熊がっ!」
「きゃーっ!」
「しょうがない、マリアこれも運命だ。熊の腹のなかで二人は永遠に結ばれるのだ…!」
「そんなのいやあああああ!」
「…大神さんとマリアさんがロシアで消息を断ってもうひと月ですね…」
「マリア…かわいそうなやつ。ほんと要領悪いよな。あの隊長といっしょに旅行だなんてよ」
「なんでも新しい隊長はんが海軍から来るらしいで」
「わあ〜どんなおにいちゃんかな」
「こんどはもう少しマシな方だとよろしいですわね」
「へへっ、スカした軟派野郎だったらあたいがぶっとばしてやるよ。赤シャツに白ス−ツでオールバックとか」
「ギターなんてかかえてはったら大笑いやな」
「そんなヘンひといるわけないよ〜」
「そうですわ。そんなふざけた方だったらわたくしの薙刀の錆にしてくれますわよ」
じゃら〜ん♪
「いや〜大神い〜親友のお前を失った俺の心の傷は深い。だが、花組のことは後任の俺にまかせて安らかに眠ってくれ〜」
《ちゃんちゃん。》