蓮華洞の暗い石壁に、低い呻きとくぐもった含み笑いが響いている。
「く…っそう…この俺が…こんな…」
 熱に曇った意識の片隅で、悟空は事の顛末をなぞっていた。
(貴様が身代わりに食われるというのなら、三蔵を放してやってもよいぞ)
(悟空、いけない!)
(大丈夫だよ三蔵様!俺の強さは知ってるだろ?こんな奴ら、ひとっ捻りでやっつけてやるさ!)
「くくく…甘かったな猿め。この魔竜剣はどんな魔物の命も吸い取る。どうだ…力が出ないだろう」
 耳朶をかじりながら、牛魔王が勝ち誇ったように囁いた。
「こいつ、赤くなってますよ魔王様。だいぶ猿らしくなってきましたぜ」
 傍らでは銀角が、その真っ赤な舌先で胸の頂をねぶっている。
「銀角、猿に着物はいらないだろう」
「おお、そうですね牛魔王様。猿は裸が似合いというもの」
 銀角が喜々として、引き裂かれた着衣の残骸を剥ぎ取っていく。しなやかに鍛えられた体が露わになると、牛魔王は劣情に歪んだ笑みを浮かべた。
「ほう…三蔵よりよほど食いでがありそうだ。楽しませてもらうぞ、猿」
 魔王の長い指が、豊かな胸をわしづかみ、揉みしだく。

 だが、悟空が心に掛けていたのは、おのが身に受ける辱めよりも、金角が追っていった三蔵たちのことであった。
(八戒…沙悟浄…たのむ…三蔵様を守ってくれ…!)

「むう…こやつ、猿のくせに尻尾がないとはけしからん。銀角、そこの如意棒を寄越せ」
「はい、牛魔王様」
「う…あっ…やめろっ…!」
 魔竜剣に力を奪われた悟空には、如意棒を御することすらできなかった。
「どうだ、この猿はこんなところに尻尾が生えたぞ…ハハハ…」
 魔王の哄笑が、喘ぐ悟空の耳にこだました。





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