××!!NO!!Mylife!!    





「おまえ・・・愛してるとか言わねぇよな・・・」
男の言葉に彼女は無言で返した。
「ま、おまえが言うわけ無いよな・・・」
と、鼻で笑う男。口にくわえた煙草の灰が白いシーツに落ちた。


音の無い冷たい部屋に無数の衣類が散らばる。そして、部屋の片隅にぽつんと置かれているベッドに全裸の男と女。
無造作に脱ぎ捨てられた衣服と彼女の乱れた髪は行為の激しさを表している。彼女はその裸体をシーツで隠そうともせずに起き上がり床に落ちた服を拾い、着始めた。
「おいおい、さっきまであんなに激しかったのにもうそれかよ。普通はこう・・・」
「帰れ。もう、用は済んだだろう」
男がニヤニヤしながら「SEXが終わった女はこうあるべき」だと語ろうとした時、冷たく言ったその顔はいつもと変わらない表情。
男は「参ったぜ」と言う風に苦笑して両手をあげた。
「OK・・・」
男がベッドから起き上がると無造作に服を着始める。
「ま、俺たちゃそんな関係じゃねえしな」
そう、彼女は男の名前すら知らない。
「じゃあな・・・」
と男が手を振るが彼女は無言のまま男を見送ろうともしない。
ドアが閉まったのを確認すると、粗末なキッチンから酒瓶とグラスを持ってくる。シャツのボタンも、ズボンのファスナーもそのままに、冷たい床に座り込んで、グラスに酒を注いだ。


彼女はまだ16歳の少女だった。
少女の名前はマリア=タチバナ。いや、もうすでに「少女」という言葉は似合わない「女」だった。
マフィアの用心棒を生業とし、ただ言われた通りにあまたの命を奪い、仕事が終われば気紛れに名も知らぬ男と快楽の一夜を過ごす。そんな女。
いや、本来彼女はこんな女ではなかった。あの日までは。
あの日、信じていたものを失ってしまい、生きる希望をなくしたあの日までは。


あれはいつだったかマリアが故国を捨て一人N.Yの酒場に足を踏み入れたとき、夜道を数人のやさぐれ男に路地裏に連れ込まれた。
しかし彼女は声を出すどころか男たちに従順だった。
別に男と身体を重ねるのは初めてでは無いし抵抗する理由も無かった。
それどころか彼女にとっては願うところだった、これでまた一歩破滅に近づく。
しかし、心がそれを受け入れなかった。汚されバランスを失った心が悲鳴を上げ、路地の隅っこで自分の嘔吐物にまみれたまま倒れているところを今の雇われ主に拾われた。
それから何度もその身体を差し出した。声を掛けてくる男に惜しみもなく細い身体を投げ出して男の欲望に全てを委ねる。
慣れるまでは時間がかかった。気は狂ったように泣き叫んだ夜もあった。誰もいなくなった冷たい部屋の隅で吐いて、嘔吐物にまみれたまま寝た夜もあった。
そんな過去の自分も今では滑稽な笑い話。
別に気に病むことじゃない。SEXなんて自慰と同じだ。


酒を注いだグラスを弄んで一気に煽る。床に落ちた黒い塊を拾い、目を細めて見た。
それは彼女が昔から使っている愛銃。
そして何を思ったのかその顔に自嘲を浮かべた。
「愛してる・・・ねぇ・・・」
男がベッドの中で言った言葉を呟いて、くくっ・・・と鼻で笑う。

そんな無意味な言葉を何度も口にしていた時があった。
馬鹿な子供だった。自分の無力さを知りもせず、願いはなんでもかなうと信じていた。
大きな背中を一心に追いかけ、いつか自分が夢見る世界が開けると、無条件にそう信じていた。
ただの、無知で無力な子供・・・・

冷たいグラスの中の琥珀色の液体が揺れる。
「面倒くせぇ・・・」
全てを嘲るかのように漏らした。




end




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