人はいつ大人になりますか。
 二十歳を数えた時ですか。
 親になった時ですか。
 貴方はいつ、大人になりましたか。
 大人と子供の違い――大人になって、何が変わりましたか。


大人になる方法

「アイリス、悪くないもんっ!」
 頬を真っ赤に染め、アイリスは激怒した。怒りを露わにするも、愛らしい声の所為で誰も慄いてはくれない。
「じゃぁ……誰が悪いというの?」
 平然と、いつも通りの口調で吐かれるマリアの台詞の方が余程恐ろしい。マリアは、抱えていた書類をテーブルの上に広げた。
 書類は、最近完成したばかりの霊子甲冑「光武」の訓練の様子を詳細に記したものだった。
「それはぁ……」
「良い? 此処をよく見て」
 反論に口ごもるアイリスの前に書類を突き出し、問題の部分を指でなぞる。
「日本語、解んないよ」
 そう叫んだアイリスの口から出る言葉は日本語。アイリスが解らないのは、漢字である。
「……読んであげましょうか? “八番機暴走。A-5地点より五時方向へ一キロ疾走。七番機、八番機制止を試みるも、失敗。八番機、弐番機に接触後、沈黙。八番機右上腕部、七番機左脚、及び弐番機右腕大破”……」
 簡単にいえば、アイリスが突然暴れだして、訳もなく走り出した。それをカンナが止めようとするが失敗し、アイリスはすみれに接触した後に行動を止めた、という事だ。
「だから、アイリス悪くないもん!」
「だったら、どうしていきなり走り出したりしたの? 私はそれを聞いているのよ」
「悪くないんだもんっ!」
「だから――」
 堂々巡りだ。訓練中、アイリスが突然暴走し、自分の機体だけでなく、他の機体にまで損害を負わせたのは事実だというのに、アイリスはそれを認めようとしない。アイリスの霊力は今のアイリスには制御し切れない。それ故に、時折こういった暴走を起こす。マリアは、アイリスに彼女の霊力の強力さと、それを制御出来なかった時に起こる事態を認識して欲しいだけなのだが。
「まぁまぁ、そう熱くなるなよ、マリア」
 横で聞いていたカンナは、朗らかな笑みを浮かべていた。
「アイリスだって、悪気があってやったわけじゃねぇんだよな?」
 アイリスは答えない。むくれたまま、そっぽを向いている。
「悪気がないことくらい、解っているわ。私はただ、状況を理解して欲しいと言っているのよ」
「アイリス、悪くないもん!」
「貴方の暴走が招いた結果なのよ。悪気があろうと無かろうと、責任を取るのは当然の事でしょう?」
 マリアの口調が厳しくなるたび、アイリスの頬は赤みを増す。
 見かねたカンナは、二人の間に割って入った。
「マリア! アイリスはまだ子供なんだ、子供に責任なんつってもしょうがねぇだろう!?」
 カンナはマリアの肩を掴む。だが、カンナのこの台詞がまた悪かったのだ。
「アイリス、子供じゃない!」
 叫ぶなり、テーブルの上に置かれていたカップが宙に浮き上がり、マリア目掛けて翔る。
「っ……」
 カップは、咄嗟の事に対処しきれず避ける事も儘ならなかったマリアのこめかみに直撃した。ぱん、と軽快な音を立てて爆発するかのようにカップははじけ、マリアは紅茶まみれになる。
 一瞬、重たい沈黙にカンナは押しつぶされそうになった。何を言えば良いのか。僅かに声を漏らしたきり、何も言わず、全く無反応なマリアに、かける言葉がない。
 カンナは、ゆっくりとアイリスの方に振り返った。
「なんて事するんだよ、アイリス」
 アイリスの肩に両手を置き、なるべく優しい口調で語りかける。カンナの淡い紫の瞳に、アイリスは哀れみを見た。
「カンナもマリアも、大っ嫌いだもんっ!」
 アイリスはそんな言葉を二人に突きつけると、テーブルに飛び乗り、向こう側へ飛び降りてサロンから飛び出していった。
 アイリスがいなくなったサロン。アイリスの消えた扉を見詰め、カンナは小さく首を振ると、ゆっくりとマリアに視線を戻した。目が合うか、否かの瞬間、マリアはふいとカンナの視線をかわし、鬱陶しそうに濡れた髪を撫で付けた。アイリスが飲んでいた紅茶だ。砂糖もミルクもたっぷり入っていて、べたべたする。
「マ……マリア……?」
 怒っている風ではないが、その心中は容易く見抜けるようなものではない。カンナは、戸惑うより外なかった。
 マリアは表情一つ変えず、テーブルの上の書類を纏める。
「……濡れてしまったわ。足跡もついたし……書き直さないと副司令に怒られてしまうわね」
「そういう問題かよ?」
 カンナを無視して、マリアはくるりと彼女に背を向けた。

 書類を抱えたまま部屋に戻り、書類の代わりにきちんとたたまれた着替えを持って出て来る。
 カンナは呆然と立ち尽くしていたが、数十秒遅れてサロンを出ると、マリアが部屋から出てくるのが見えた。カンナはそのままその場で待ち、階段を降りるマリアを追った。
 マリアは、とにかくカンナを無視し続けた。マリアの後ろを歩くカンナは、態とマリアと同じように手足を動かす。マリアが右足を出したらカンナも右足、という風に。
 べたつく髪を撫で付けながらマリアは地下まで降り、シャワー室へ向かった。
「あら、マリア、どうしたの?」
 地下へやってくると、向こうからあやめがやってきた。丁度、一階へ向かうところ。あやめはマリアの顔を見るなり、声を上げた。マリアの艶やかな金髪が濡れ、奇妙に絡み合っているのが目視で解ったのだ。
「あやめさん……あの……いえ、ちょっと……」
 答えようとして言葉を捜し、返したのはそれだった。大した事ではない、というより、話したくないかのように見える。
「そう?」
 あやめは気に掛けない振りをして、マリアの背後に立つカンナを見上げた。カンナはにやりと唇の両端を上げ、
「アイリスがさ、怒ってカップ飛ばして、マリアが頭っから紅茶かぶっちまったんだよ」
「アイリスが? どうして?」
「マリアに説教されて……」
 カンナがそこまで説明すると、あやめは今度はマリアを見上げた。
「後程改めてお話に上がろうと思っていたのですが……」
 あやめは軽く頷いた。マリアの前置きが嘘ではない事は解っている。マリアがこういう場で中途半端に事を説明したり報告したりする事が余り好きではない。そのくらいの事はよく解っているのだが、あやめとしては、この状況を大まかにでも理解しておきたいところだった。
「アイリスに、先日の光武の訓練で暴走した理由を問いました。彼女の霊力の強力さと、それが暴走するとどういう事態を起こすかを理解して欲しいと思い、注意をしました。それだけです……」
「きつかっただろ、マリアの言い方。なんであんな言い方するんだよ?」
 カンナは後ろからマリアの頭を小突く。
「貴方に対しても、同じように言う事はあるでしょう?」
 マリアは振り返り、じっとカンナを睨みつける。
「そりゃそうだけど、アイリスとあたいは違うだろ? アイリスはまだ子供なんだから……」
 そういわれても、マリアは答えなかった。
「マリア、やっぱり後で報告に来てちょうだい。夕方まではすみれと格納庫にいるから、それ以降にしてくれる?」
「了解しました」
 マリアは短く答えると、失礼します、と頭を下げ、あやめと別れた。あやめとのすれ違い際、カンナは彼女の方を向いて肩をすくめた。あやめはくすりと笑い、マリアを追えと指で示した。

「内緒の方が良かったか?」
「後で報告するつもりだったと言ったでしょう? 今話すような事でもないと思っただけよ」
 マリアは早足に歩きながら素っ気無い態度で応じる。そして、シャワー室に着くと、自分が入れるだけの隙間を開けて入り込み、すぐに扉を閉めた。
「何で入れてくれねぇんだよ?」
 カンナは不満そうに大きく扉を開く。
「必要ないでしょう? 大体、どうしてついてくるのよ?」
 冷ややかな瞳。向けているのは顔ではなく殆ど目だけといって良い。それも、口を開いている僅かの間だけで、言葉を出し切るとすぐに自分の手元しか見なくなる。
 肩の濡れた黒く重たいコートのベルトを解き、袖から腕を抜いて体から完全に外すと、慣れた手つきでそれを畳む。カンナは、その様子を黙って見詰めていた。
 コートを畳み終わり、かごの中に置くと、ようやくマリアはカンナの方に顔を向けた。
「用があるなら、後で聞くわ。悪いけど、出てくれるかしら?」
 カンナは扉を開けたままそこに立っている。服を脱げなくて迷惑だ、と、マリアは目で訴える。カンナは、ぴしゃりと音を立てて扉を閉めた。自分も脱衣室に残って。
「……あたいも、シャワー浴びる」
 言った瞬間、ほんの僅かにマリアの表情が曇った。その意味がカンナには解らなかった。――その時は。
 カンナはまず鉢巻を解き、それから道着、靴、シャツ、スパッツとするする脱いでゆく。何の躊躇いもなく、女同士なので、裸体を見せる事も気にはならない。カンナの健康的な褐色な肌には、ところどころ打ち身のような青痣が見られた。だが、カンナはそれを全く気にしている様子はない。まるで、あって当然だとでも言うかのように。
 カンナが靴を脱いだ頃、マリアは小さく溜息をついた。このまま彼女を置いて此処を出れば、きっと彼女はすぐさま服を着て――それも、恐らくシャツとスパッツという軽装で――追い駆けてくる。どこへ行っても同じだろう。それに、早く髪を何とかしたかった。
 諦める外ないらしい。
 マリアは身体に十字に縛った銃のホルダーを解き、ブラウスのボタンを外し始めた。白く清潔なブラウスだが、地が厚くて肌が透けるような事はない。
 そういえば、とカンナは今までの事を思い返ていた。マリアは、今まで誰とも一緒に着替えたりはしなかった。衣裳も、着替える時は必ず一番奥で、決して肌の見えないような手順で手早く着替えていた。稽古の時も、一緒に着替える事はない。レオタードの上には必ずシャツを羽織って、ストッキングかタイツをはいている。稽古が終わって汗をかいているはずでも、誰かがシャワー室にいれば、決して入っては来なかった。大抵アイリスとカンナは一緒に入るし、すみれも黙って一緒にいる。だが、マリアだけはそこにいないのが普通だ。今まで気にも留めなかったが、振り返ってみると、まるで避けられていたかのようにも思える。稽古着の事に関しては普通なのかも知れないが、気にしてみると頭から離れない。
 カンナがそんな事を思いあぐねている内に、マリアはブラウスのボタンを総て外し終わり、前をはだけさせていた。カンナには背を向けている。ボタンは外したが、それをすぐには脱がない。ズボンのベルトを外し、ファスナーを下ろして、手を止める。中途半端な状態。カンナを盗み見ようとするが、それもすぐにやめた。諦めたつもりだ。仕方ないのだと言い聞かせ、ズボンを脱ぎ、ブラウスを肩からずらす。その時カンナの目に映ったのは、奇妙に盛り上がった肌だった。うなじの下、左肩から右肩にかけて、白く皮膚が浮き上がっている。巨大なみみず腫れのようだった。露わになった背中には、数箇所の小さな切り傷や銃創。打ち身らしい痣。カンナは口元を手で覆った。どう見ても、昨日今日ついたような痕ではない。
「マリア……!?」
 思わず、カンナはマリアの左肩を引き寄せた。マリアはバランスを崩しかけたが、すぐさま左足をついたため、なんとか転倒せずにすんだ。マリアはカンナと斜めに向き合う形になった。
 カンナは更に息を呑む。右胸の上から鳩尾に真っ直ぐに刻み込まれた斬り傷。刀か何か、鋭利な刃物で意図的に斬られた傷だった。それ以外にも、背中と同じく銃創や打身痕が生々しく浮き上がっている。
「何、カンナ?」
 平然とマリアは問う。カンナは、マリアの身体から目が離せなかった。
「いくら女同士でも、そうじろじろ見るものではないわよ」
 つっけんどんに言い、さっとバスタオルを身体に巻きつける。
「な、なぁ、マリア……その傷って……」
 声に驚愕の色が見え隠れしている。
「……貴方にだってあるじゃない?」
 マリアは、至って冷静に言葉を返す。
「え?」
「貴方の身体だって傷だらけよ。お互い様でしょう? 身体が冷えるわ。早く入ったら?」
 何事もなかったかのようにシャワー室の扉を開いたマリアが、まるで別人のようで、カンナは寒気を覚えた。

 マリアにしてみれば、カンナの見せた反応は意外なものだった。
 以前、ある男に身体を見られた事がある。紐育での事。マリアの過去も素性も何も知らない男だった。酔い潰れたマリアを彼女の部屋まで運び、一晩中面倒を見た上、朝食まで作ったという、世話焼きな男。
 その男の前で、酔ったマリアは普段の習慣で律儀に服を脱ぎ、全裸でベッドに入ったらしい。翌日目を覚まして驚いたのは当然の事だが。
 その時、その男は、何もなかったかのように振舞った。どう考えても、若い女性の身体に傷が刻み付けられていれば気にかかる。彼は、マリアが紐育でマフィアとつるんでいる事は知っていた。だが、それで負った傷でない事は見れば解るはずだ。傷の状態が古いし、彼はずっとマリアに付き纏っていた男だ。マリアが仕事で怪我をした事が殆どなく、あったとしてもかすり傷程度だという事くらいよく知っているのだから。普通、気になるものだ。
 だが、普通はそうなのだ。普通は。まるで何事もなかったかのように振舞う。見なかった振りをする。誰だってそうする。日本に来る前に入院していた病院の看護婦や医者もそうだった。手術や手当ての時に傷を見ないはずもないのに、まるで見ていないかのようにマリアに対応していた。一切傷の事には触れなかった。マリアの事をどれほど知っているのかは解らないが、それほど詳しい経歴を説明されていたとも思えない。だが、何も見ていない振りを続けていた。マリアが退院するまで、ずっと。
 傷の事を知っているのは、帝劇ではあやめのみ。彼女は一言、「大丈夫よ」と言っただけ。その意味が、マリアにはいまいち理解出来なかった。
 そして、カンナに知られた。カンナは、真っ直ぐに傷を見詰めた。素直に疑問を口に出してきた……

 カンナが一番手前のシャワーに入ると、マリアは敢えて一番奥に入った。
 蛇口を捻ると、シャワーから湯が迸る。真っ先にカップの当たった部分に湯をかける。ずっと気持ちの悪かったものが漸く消えてゆくようで、マリアは安堵した。だが、髪から滴り落ちた湯が胸の傷に触れた時、マリアは小さな痛みを覚えた。痛む筈はないのだ。もう、何年も前の傷。痕は一生消えないかも知れないが、もう痛む筈のない傷。それが、ずきりと痛む。
「隊長……」
 マリアの唇から漏れた言葉は、床に弾ける水滴の音に阻まれて、マリアの耳にしか届かなかった。

「なぁ、マリア……?」
 ざぁっと、雨のように放出されるシャワーで肩を濡らしながら、カンナはマリアの方へ声を飛ばした。マリアは応えない。
「マリア!」
 先程より少しトーンを上げて再び声をかける。
「…………何?」
 僅かの間の後、返事。
「あのさぁ……マリアって、何でアイリスにあんな態度とるんだ?」
「平等に……。みんなと同じように接するのは当たり前でしょう」
 表情の見えない声。あまり、相手にしたくない。
「ん……マリアさ、子供、嫌いだろ?」
 それまでの会話とは全く関係のない質問を返され、マリアはいささか不満だったが、そんな様子は全く見せず、返答した。
「嫌い、というより、苦手よ」
「扱い辛いか?」
「何を言って良いのか解らないわ」
 答え、マリアは髪に向けていたシャワーを胸の辺りまで下ろした。なるべく傷にあたらないように肩の辺りを濡らすだけに留める。湯を放出する音を耳から遠ざけなくては、カンナの声がくぐもって聞こえる。
「けど、カンナ。今はそんな事関係ないでしょう?」
 冷淡なマリアの声に、カンナは苦笑した。
「なぁ、マリア。自分が子供だった頃の事、考えてみろよ。アイリスはまだ子供なんだからさ。マリアがアイリスくらいの年の時、大人はどういう態度とってたか考えてみろよ?」
 考えるまでもないが、マリアは考える振りをして沈黙した。
 子供。年齢の話か。アイリスの年は、九歳。九歳の頃といえば、流刑村で貧しい生活をしていて、両親からも笑顔が消えていった頃。周りの大人は皆、半分日本人のマリアを疎んじ、自分の子供と接する事がないように、また、自分の側へ寄ってきた時は他の人には見せないような残酷な態度で応じていた。――そんな態度を、アイリスにとれるはずがない。両親の死後、流刑村を出たが、その後行き着いたのは、種類は違うが今と同じ“戦闘部隊”。そこでは、最年少だったマリアを子供として扱う者はなく、対等に接してくれていた。マリアにとっては、それが寧ろ嬉しかったのだが。
――アイリスは違うのだろうか。
 戦闘部隊の隊長が、特定の隊員を特別扱いする事など、許される筈がない。それでは他の隊員の士気も落ちてしまう。
「私は、自分が間違っているとは思えないわ」
 これ以上話す事はないとばかりにマリアは再びシャワーを上げた。
「何で? きつ過ぎるだろ、アイリスに対する態度が」
 カンナが叫び、その声が嫌でも耳に突き刺さってくる。
「貴方達に対する態度とかわらないじゃない?」
 仕方なくまたシャワーを下ろして返事をする。水滴が傷に触れるたびに傷が痛む。
「そうじゃなくてさぁ。アイリスは子供なんだから」
 マリアは、小さく首を振った。
「カンナ、確かにアイリスは大人じゃないけど、それはわた――」
 マリアの言葉が終わらない内に、ばん、と大きな音を立てて扉が開いた。誰が開けたわけでもなく、目に見えない力によって押し開けられた。ノブが壁にぶつかり、壁が僅かにかけ、蝶番が緩む。
 何事かと、マリアとカンナはシャワーボックスを開いた。カンナはシャワーを止めず、手にしたままだったため、そこにいた小さな少女――アイリスは、頭の天辺からお湯をかぶる事になってしまった。
「ア、アイリス……!」
 アイリスは、わなわなと肩を震わせている。
 マリアは咄嗟に蛇口を閉め、バスタオルを身体に巻いてアイリスに駆け寄ったが、アイリスはきっ、とマリアを睨みつけた。
「アイリス、子供じゃないもんっ!」
 叫んだアイリスの頬を伝うのは、湯を浴びせられたゆえか、それとも。
「嫌い、嫌い。マリアもカンナも、大っ嫌い!」
 瞬間、パンッ、と巨大な音が鳴り響き、カンナの握っていたシャワーの首が飛んで壁にぶつかり、砕け散った。首を失ったシャワーのホースから噴水のように湯が溢れ出す。アイリスの霊力が、また暴走している。
 カンナは慌てて湯を止めた。
「アイリス!」
 ずぶぬれのまま飛び出していったアイリスを追おうとしたが、流石にこの恰好で脱衣場からは出られない。二人は急いで服を着た。マリアは手早くブラウスを羽織り、ボタンを留め、ズボンを穿く。カンナは予想通りスパッツとシャツだけの軽装で、靴に素早く足をいれた。カンナに比べれば、マリアは服を着るのにいささか時間がかかる。が、尋常でない早さでマリアはブラウスのボタンを全部留め、銃のホルダーを体に縛りつけた。体が慣れてしまっているため、銃を装備していないと落ち着かず、外しておくわけにはいかないらしい。マリアはコートを掴みとった。靴に足を突っ込んで、紐を結うのもそこそこに、既に見えなくなっているアイリスを追い駆ける。幸い、アイリスの身体から滴り落ちる水滴が、アイリスの通った道筋を示してくれていた。
「マリア……カンナ……!?」
 騒ぎに気付いたのか、あやめが格納庫から出てくる。走り去る二人の背中を見たが、一瞬カンナが振り返っただけで、マリアは見向きもせずに走り去った。
 その間に、走りながらマリアはコートに袖を通し、ベルトを縛る。
 普通、こういう時、人は家の中に籠もるよりも外に出ようとする。特にマリア達を突き放して逃げ出したアイリスなら、きっとそうするだろうという確信がマリアにはあった。
 案の定、アイリスは、帝劇の外へ出て行っていた。


「マリアさん、カンナさん、アイリスちゃんが……」
 玄関で鉢合わせた事務の榊原由里が、二人に何か言おうとしたが、それすら無視して二人は帝劇を飛び出した。
「どっち行った?」
 カンナが問うが、足元を見れば一目瞭然。
「急ぎましょう。アイリスの足ならすぐに追い付けるわ。水滴が消える前に……」
 帝劇を出て左。そのまま直進して、更に左。天気がかなり悪いためか、人通りが少ない。その分、走り易かった。
「アイリスー!」
 カンナが周囲を見回し、声を張り上げる。だが、それらしい人影もなければ、返事もない。
「アイリスって、そんなに足速くないだろ!?」
 いくら走っても追い着かない。途切れ途切れの水の落ちた跡。
「足跡がついていないところもあるでしょう? アイリスは空中移動したり、瞬間移動したりしているのよ」
「それって、人に見られたらやばくないか!?」
 確かに。だが、通り過ぎる人達は、特に騒いだりはしていない。という事は、アイリスが消えたり飛んだりしているところを見ていないという事だろう。実際、アイリスもそんなところを人に見られれば、行く手を阻まれるのは必至。そうなれば、すぐに追い着かれる。
 それなりに考えて、人に見られないようにしているということか、あるいは、別の目的や能力の限界のためか。
「日が出てなくて良かったな。水の跡が消されなくて良い」
「雨でも降ったら最悪だけどね」
 息を切らせる様子もなく、二人は言葉を交わしながら走っていた。
 だが、直後、その“最悪の事”が起こってしまった。


 日当たりの悪い、寂れた路地裏。晴れていようと曇っていようと関係なく人通りのなさそうな道に迷い込んでしまったアイリスは、手の甲に落ちてきた雫が、自分の髪から滴り落ちたものではない事に気付いた。
 熱い息を吐きながら、潤んだ瞳で空を仰ぐ。さっきまでは太陽こそ見えないもののそれなりの明るさがあったが、今はもう真っ暗だ。重く垂れ込めた雲から、雨がアイリスの体を打ちつけた。
 既にしっかり濡れているが、これ以上濡れたいとは思わない。アイリスは慌ててすぐ目の前にある建物の軒下に瞬間移動した。
 奇妙な雰囲気の建物だった。二階建てで、表に階段が取り付けてある。一階にも二階にも扉は一つずつしかない。一階の隅には小さなシャッターがついているが、そこはどうやら車庫のようだ。民家ではないだろう。小さな町工場か何かといわれればそれで納得できるかもしれないが、どうもそういった類のものでもなさそうだった。小さな看板が掲げてある。しかし、滅多に人の来ないような場所に店を構える者など普通はいないだろう。それに、客を迎えるような佇まいではない。寧ろ、何かから隠れるかのような。
「マリア……カンナぁ……」
 こみ上げてくるものを唇を噛み締めて堪える。さっき、「大嫌い」などと言って飛び出してきたのに、自分から突き放したのに、何故だろう。自分は、彼女達が此処に来てくれる事を望んでいる。
 雨は、ほんの数分で土砂降りになっていた。数メートル先すらぼやけて見える。人影も足音もない。瞬間移動や飛行をしていたから、引き離してしまったのだろうか。それとも、最初から追い駆けてなんかくれなかったのだろうか。
 アイリスは、自分の小さな両肩を抱き締めた。夏が終わって未だ間もないが、雨が降ると背筋が冷たくなる。
 この家の中に入れてもらおうと、アイリスは一階の扉に手をかけた。鍵がかかっている。扉を叩いてみた。しかし、中から返事はなかった。不満だった。次の瞬間、アイリスは姿を消した。そして、建物の一階内部に入り込んでいたのである。
 一階には十六畳ほどの部屋があった。他の部屋に繋がる扉はない。一階部分は、この部屋と車庫しかないようだ。床は板張りで、ガラス戸のついた小さな茶箪笥と大き目の座卓だけが置いてある。壁には二つの窓以外には、白いスーツを着た男の写真が額に入れて飾られているだけだ。奥には小さな台所らしきものがあり、コンロの上にはやかんが置かれていた。部屋の照明は明るい。アイリスの帝劇の自室と同じくらいの明るさはあるだろう。壁が白く浮き上がって見える。雨で周囲の景色の曇った、暗い野外にいたアイリスには、眩しく感じられるほどだ。
 その部屋には、男が十人ばかり床に腰を下ろしている。明るく小奇麗な部屋に不似合いな、人相の悪い男ばかり。その男達は狭そうに座卓を囲み、二、三人そこに入りきれず壁際に寄っていた。当然、音もなく現れたアイリスに全員目を丸くする。
 中にいるのに返事をしなかった男達。彼らが自分に驚いてくれた事に、アイリスは満足していた。
「ど、どうやって入ってきたんだ、お嬢ちゃん!?」
「お嬢ちゃんじゃないよ、アイリスだよ」
 アイリスは、にっこりと満面の笑みを浮かべて答える。
「そんなこたぁどうでも良い。ア、アニキ、どうしやしょう?」
 明らかに慌てている。“アニキ”と呼ばれたのは、赤いスーツを着込んだ長身の男だった。
「慌てるんじゃねぇよ、武田。そんな子供ほっとけ。ほら、追い出せよ」
 男が言った、その時、アイリスの顔つきが変わった。
「けど、外は雨じゃないすか。こんな中子供追い出すなんて可哀想っすよ。今もこんなに濡れちまってんですぜ、この子供」
「まぁ、確かに可哀想だけどな。でも、ボスが帰ってきたらどうすんだよ? 第一時間がねぇんだ。子供に構ってる暇なんかねぇよ。あの事がボスにばれるのと、子供の相手とどっちが大事だ?」
「こんな子供を雨ん中放り出せって言うんですかい? アニキには優しさってもんがないんすか?」
「だったらてめぇがこの子供連れてどっか行け。俺は子供に関わってる暇はないが、お前はそうじゃないんだな?」
「んな事言ってやせんぜ、俺は。ただ、子供を雨の中ほっとくのはどうかって言ってんですよ」
「だぁからこの子供連れてお前も消えろ!」
 “アニキ”は、アイリスの腕を掴んだ。しかし、電流が流れるような痛みを感じ、すぐさまてを離す。
 男達の横で、アイリスの身体を光が包んでいた。ふわりと髪が浮き上がる。
「な、なんだ……?」
 周りにいた男達は驚き、じりじりと後退した。全員が壁に背をつける。それまで部屋の照明に照らされて輝いていたアイリスの体に纏わりつく水滴が、今はアイリスの内からくる何かによって光っている。
「このガキ、おかしいぜ!?」
 アイリスの青い目が、怒りに震えていた。
 全員が、思わず息を止めた、その時。
「アイリス、子供じゃないもんっ!」


「アイリス……」
 マリアは、ぐるりと自分の周りにあるすべての物を視界に入れた。寂れた路地裏。殆どの建物が背を向けている細い道。人の気配などなかった。
「――本当にこんな所にアイリスがいるのかよ!?」
 シャワーを浴びた意味などもうどこにもない。服を脱いでシャワーに入ったのに、今は服も靴もずぶ濡れだ。その上、人通りの全くない道に入り込んでしまい、カンナは不安げに声を上げた。
 吐く息が少し白く残り、腕に鳥肌が立っている。コートを着ているマリアは兎も角、道着を脱衣室においてきたカンナはかすかに震えていた。
「解らないわ。けど、こっちに曲がった事は確かよ。もう足跡がないからなんともいえないけど……」
「え?」
 呟くようなマリアの声。カンナは聞き返した。雨の音が強過ぎて、声は張り上げなくては相手に届かない。
「解らないわ」
 マリアは腹から声を出した。今度は聞こえたのだろう。カンナは俯き、眉を寄せた。
 引き返すか。そんなことすら考え始めた時。
 ドォッ、と轟音が鳴り響いた。暗くて解り難いが真正面にぼんやりと灰色の建物が見える。唯一、この道に入り口を向けている建物。音は、そこからだ。
「アイリス……!?」
 彼女が霊力を暴発させた時と全く同じ。つまり。
「アイリスは、あの中……?」


「うわ、このガキ、なんかしたぜ!?」
「アイリス、子供じゃないもんっ!」
「すげ、日本語喋ってるよ」
「馬鹿、さっきも日本語喋ってただろうが。下らねぇこと言ってないで、取り押さえろ!」
 男達は一斉に立ち上がり、アイリスに飛び掛った。


 どうしてアイリスが建物の中にいるのだろう。だが、それ以外に考えられない。
 足元に出来た水溜りを蹴り、カンナはマリアより一足早く建物に向かって走り出す。マリアも、それを追うより外なかった。
「あそこ、金貸しだぜ」
 カンナは看板の文字を読んだらしかった。建物に多少近付いたとはいえ、小さな字。雨が降っていて、視界が悪い。マリアでもよく見えない字だった。マリアは思わず、カンナの視力に嘆息した。が、すぐにカンナの言葉に言葉を返す。
「って、金融? こんな所に?」
「闇金融、暴力団――!」
「ギャング……?」
「――っていうのか?」
 言いながらカンナは疾走する。右足で地を蹴り、左足を振り上げた。
「壊しちゃ駄目よ!」
 マリアの声がカンナの耳に届くより速く、カンナの足は扉を蹴倒していた。蝶番が普通は考えられないような方向へひしゃげ、ネジが飛ぶ。
「どわぁっ!!」
「いきなり破壊しないで!」
 男の叫び声。しかし、カンナはそれを気に留める事もなく、走りながら叫んだマリアの声に縮み上がった。
 部屋の中にいた男達は、一斉に動作を止め、入り口に注目する。見るも無残にぶち破られた扉。日本人離れした体つきの、長身の女が立ち、その向こうから雨の匂いのする風が吹き込んできた。
「全く、鍵かかってなかったら普通に開くでしょう!?」
 マリアはカンナに追い付き、カンナの足の下にある扉に目をやった。しっかり鍵はかかっていたらしい。
「まぁ、良いわ……」
 二人の足元で、男が口を金魚のようにパクパクと開けたり閉めたりして、目を大きく見開いていた。
「あぁぁわわわ……な、な、なんなんだ、今日は。い、い、い……一体何の日だ!?」
 再び、男は大声を上げた。危うく扉の下敷きになるところだったのだ。
「ふ、不法侵入で訴えるぞ、お前ら!」
 確かに合法的な事ではないが、違法行為をしているのはお互い様だろう。ギャングが日本で法によって認められているような存在だとは到底思えない。マリアは男の浅薄な言葉を無視し、部屋の中を見回した。
 カンナは裏金融、つまり暴力団といった。そういう無法者達をアメリカではギャングと呼んでいて、マリアもそれに関わった事がある。それだけに、マリアは部屋の中を見て軽い目眩を覚えた。「日本は平和ボケした国だ」とか、「水と平和はただ」とか言われていると聞いた事があるが、そんな国があるはずないと思っていた。実際、ほんの二十年前には日露戦争などという大きな対外戦争をしていたのだから。しかし、マリアの目の前にあったのは先の言葉を信じたくなるような光景だった。こんな明るいギャングの溜まり場なんて見た事がない。もっと薄暗くて、煙草の火で人のいる場所を確認するのが普通だった。部屋の中だってもっときな臭くて、酒瓶がばら撒かれたような床で。それなのに此処はどうだ。この明るさ。その上、男ばかりが集まっているというのに妙に小奇麗だ。このギャング団が特殊なのだろうか。本当に、この国は降魔さえいなければ平和なのかも知れないと、マリアは思わずにはいられなかった。
「――アイリス!」
 マリアが呆然としていると、カンナは、男達に囲まれて二人の男に床に押し付けられているアイリスの姿を見止めて叫んだ。男達はその声の大きさにびくりと体を震わせる。確か先程、いきなり入り込んできたこの外国人の女の子が、先程そんな名前を口にしていたなと、思い出す。嫌な予感がして、それぞれ近くの者と顔を見合わせ、額に汗を浮かべていた。
 状況が悪過ぎる。
「……まさか」
 マリアもアイリスを見やる。口元を手で覆い、気になるところで言葉を留めたマリアを、カンナはじれったそうにじっと見ていた。
 男達もまた、緊張の面持ちでマリアを見詰めた。
「何? なんだよ?」
「…………誘拐……とか……?」
 マリアがポツリと呟くと、カンナの目つきが変わった。目が吊り上り、鋭い。睨まれれば、硬直してしまいそうな。
 男達の顔色も変わった。真っ青になっていた。予感的中。
「はぁ、なるほどなぁ。やってくれるじゃねぇか」
 カンナは右手を握り締め、左手でバキバキと音を立てる。
「ア、アニキ、なんかあの女達変な事言ってるような……」
 だが、男の言葉は最後まで続かなかった。
「あたいらの仲間に手ぇ出した罪は重いぜ!」
 カンナは飛び上がり、左のすねで男の一人の頭を払った。咄嗟の事で何の構えもなく攻撃を受けた男は、そのまま壁に頭をぶつけて気を失った。
 それが、乱闘――もとい、戦闘開始の合図だった。一も二もなく、こちらの事情も聞かずに攻撃を仕掛けたカンナに、男達は寒気を覚えた。これだけ男がいるというのに、何の躊躇いもなく攻撃を繰り出したカンナには、相当の自信があると見える。実際、蹴り一撃で大の男を伸してしまったのだから。しかし、仲間を一人倒されて、黙ってはいられない。男達はいきり立った。
「やったな、このクソアマ!」
 男の一人がスーツの裏から懐剣を抜くと、マリアに踊りかかった。
「物騒ね……。やったけど、それが何?」
 懐剣を構えて迫り来る男を、身を反転させてかわすと、マリアは男の背に肘を叩き込んだ。男は前のめりに倒れかかった。何とか両足で踏ん張り、マリアの胸倉を掴むが、コートが濡れていて指が滑った。マリアは膝を跳ね上げて男の腹に埋め込む。カンナほど攻撃速度は速くはないが、無駄のない動きであっさり男を伸してしまった。
「やるじゃねぇか、マリア」
「少しはね……」
「抜かないのか?」
「……一般人相手に抜くような武器じゃないのよ」
 早口に答えると、マリアは床に伸びている男の握っていた懐剣を拾い、鞘に収めた。
「おい、マリア、まだ敵はいるんだぞ」
 慌てた様子のカンナにマリアは小さく笑いかける。が、カンナはその後ろに別な男がナイフを構えて襲い掛かってくるのを見た。
「マリア、後ろ!」
「貴方も――!」
 カンナの向こうにも敵の攻撃を確認したマリアはカンナに注意を促すと、振り返り、男が振り下ろしたナイフを懐剣の鞘で受け止めた。白木拵えの鞘にナイフは突き刺さり、動かなくなる。男は咄嗟にマリアから飛び離れた。接近戦は不利だと判断したのだろう。
「良い判断だわ。でも……」
 見方を誤っていた。マリアは懐剣の鞘からナイフをねじり取った。そして、軽く息を吸い込み、手首を捻って懐剣を真っ直ぐに男に向かって投げつけた。白木の鞘に納まった反りの浅い懐剣は、殆ど直線に近い軌道で飛び、男の額に直撃する。鞘と刀身の重みに速さが加わり、衝撃は並みではない。脳天を激しく揺さぶられ、男はのたうつ事もなく沈黙する。
 一方カンナは、殴りかかってきた男の攻撃を真っ向から受け止めた。
「やるじゃねぇか、あんた」
 殆ど全員が武器を持っている中で、素手で攻撃してきた相手が嬉しくもあった。予想より遥かに鍛え抜かれた男の攻撃にカンナは口元を緩めた。
「良い攻撃だぜ。気に入った」
 笑顔のまま肺の奥まで息を吸い込み、一瞬呼吸を止める。
「はっ!」
 適当な距離をとって相手のこめかみに掌打をかける。本気で来る相手にカンナは決して手加減をしない。が、男はカンナの手加減無しの攻撃を受けられるほど頑丈ではなかった。ただその一撃で床に転がってしまったのである。尤も、彼でなければ首の骨を折っていたかも知れないことを思うと、相当頑丈なのだが。
「げ、もう終いか?」
 床にしたたかに頭を打ち付けて動かなくなった男を見下ろし、カンナはぼやいた。
 マリアは髪を掻き揚げた。床に雫が滴り落ちる。まだべたついている髪が鬱陶しい。
「お、おい、一人ずつかかっても駄目だ。女だとか思わねぇで、一気にかかれ!」
 一番の兄貴分らしい赤いスーツの男が叫ぶと、その男と共にアイリスを取り押さえている中背の男以外の四人の部下は、一斉にカンナとマリアに飛び掛った。
「そう来なくっちゃ面白くねぇ」
「私は最初から面白くはないんだけど……」
 完全に目的を違えているカンナに呆れつつ、正面に立つ男と向き合った。

「もぅ、重いよ〜」
 乱闘中の部屋の隅で床に押さえ付けられていたアイリスは、床の上で足をばたつかせた。
「あぁ、すまねぇな。アニキ、もう離しても良いんじゃないっすか?」
「そうだな。大人しく座ってろよ。危ないから。俺達は別に乱暴しようとしたわけじゃねぇんだ。暴れるから抑えただけだからな」
 兄貴分らしい男は、アイリスに言い聞かせた。
「うん! アイリス、大人しくマリア達見てるね」
 状況が解っているのだろうか。アイリスは愛らしい返事をして、二人の男と壁際に腰を下ろした。


 二人の男が前後からマリアに襲い掛かろうとしていた。マリアは軽く足を前後に開き、両手を握る。
「敵は正面ばかりとは限らねぇぜお嬢さん」
 背後からマリアに迫った男は、マリアを羽交い絞めにした。
「そうね……。でも、身長差を考えた方が良いわよ」
 呟き、ひゅっと唇から息をもらす。
「ん?」
 マリアは突然膝を折った。一七〇センチあるかないかの男の腕からマリアの肩が抜ける。この身長の男が、いくら女とはいえ、一八〇センチをゆうに越えるマリアを一人で抑えようというのは無理がある。コートが濡れているため、思いの外楽にすり抜けられた。マリアが床すれすれにまで身を落とすと、前方から攻撃を仕掛けてきた男は勢い良くマリアの後ろに立っていた男に拳を振り上げた。マリアの腹を狙ったらしい拳は、男の胸を強打した。そのまま男は後方によろめき、座卓に躓いてその上に倒れた。肺に直撃したのだろう。来ていたシャツの胸の辺りを掴み、痛みにもがき、座卓の上でのたうち回る。もう一人の男がその様子を見ておろおろしていると、突然男は座卓から振り落とされた。カンナが何も知らず座卓の脚の一本を掴み、振り上げたのだ。床に落ちた男は泡を吹いて伸びた。
「なんか落ちたか!?」
「気にしなくて良いわ」
 マリアにそう言われると何の疑問も持たず、落ちたものを確認もせず、カンナは自分の正面にいた二人の男を座卓で薙ぎ払う。
「おりゃぁっ!」
「うぉっ」
 辛うじて男達はそれをかわした。
 が、一人が座布団で足を滑らせてもう一人の男を巻き添えにして奥の台所に倒れた。座布団で滑った男はシンクに頭を打ち付け、巻き添えを喰った男の上にはやかんが降ってきた。二人はそのまま動作を止めた。
「死んだか?」
「……大丈夫じゃない?」
 呆れた声。カンナは伸びた二人の男に覆いかぶせるように座卓を置き、振り返る。一人男が立っていた。自分の仲間を殴り倒してしまった男。
「くっそぉぉぉぉ!」
 男はわけも解らず両手をぶんぶん振り回し、近くにいたマリアに飛び掛る。だが、マリアは軽くそれをかわすと、男のうなじを手刀で打った。
「はい、カンナ」
 前のめりに傾いた男は、カンナの方へよろめく。
「よっしゃぁっ」
 男は――本人はかなり手加減したつもりだが――容赦ないカンナの正拳を喰らい、あっさり戦闘不能となった。
「大した事ないな、ホント……」
「本当に平和ね……。良い事だわ」
 マリアは溜息をつき、先程懐剣を投げつけて伸した男を見下ろす。男は片目を開け、マリアを見上げていたが、マリアと目が合うとすぐさま目を閉じ、気絶した振りをした。カンナにやられた台所の二人も、なるべく動かないようにこそこそ何か言っているのが解った。「じっとしておいた方が良い」とでも言っていたのだろう。
 熊に出くわしたようなものか。気絶した振りをしておけば、手出しはされないと思っているのだろう。尤も、マリアは戦意のない者を攻撃するつもりなどさらさらない。体力の無駄だ。カンナはどうか解らないが、恐らくマリアと同じ考えだろう。

「こいつら、怖い……」
 アイリスと壁際に座っていた男の一人が言った。
「マリア達、カッコい〜」
 アイリスはアイリスで、マリア達の戦闘シーンに見惚れていた。
 ついに痺れを切らせ、男の一人が立ち上がった。赤いスーツの、長身の男。
「ほぉ、やってくれるじゃないか、お嬢さん方」
 にやりと口元に笑みを浮かべている。カンナとよく似た、この状況を楽しんでいるような顔だった。
「ア、アニキ……!」
 慌ててもう一人の男が手を伸ばすが、
「黙ってな、武田。手ぇ出したら承知しねぇぞ」
 バキバキと拳を鳴らし、忠告するその姿は雄々しく、アニキと呼ばれている事も頷ける。
 しかし。
「いや、手は出さないっスけど……」
 “武田”と呼ばれた男には、どうにもこの戦いの意味が理解出来ないでいた。
「なんか、変じゃないか……なぁ、お嬢ちゃん?」
 アイリスに向かって首を傾げる。

 “アニキ”は、スーツを脱ぎ、ネクタイの結びを緩め、カンナと向かい合った。
「二人同時に来ても構わねぇぜ」
「けっ。あたい一人で十分だよ。マリア、手ぇ出すなよ?」
「ええ……」
 マリアは壁際へ寄った。それにしても、足元に人が転がっているため、戦いにくそうだ。元々それほど広い場所でもない。カンナのように動き回る戦いを得意とする者には不利かも知れない。尤も、接近戦の苦手なマリアには初めから相当不利だったのだが。

 先手を打ったのはカンナ。床を蹴り、逆足が床につく前に上半身を捻って正拳を繰り出す。が、足元に転がっている男達に気を取られ、難なく最初の攻撃をかわされてしまった。
 そこへ、相手の拳の一撃。だが、その手をカンナは受け止め、二の腕をつかんで捻る。勢いよく男は肩から床に叩きつけられた。しかし、男は床に身体がつく直前、受身を取って何とか耐え、すぐさま立ち上がる。
「面白いじゃねぇか」
 壁に背をつけ、二人の戦闘を見ているだけのマリアにも、カンナがどれだけこの状況を楽しんでいるかがよく解った。
 それにしても、と、アイリスの方を見やる。最初は取り押さえられていたアイリスだが、いつの間にか二人の男の間に挟まれて大人しく座っていた。そして今は、胡坐をかいて戦況を見守っている男の足に座り、瞳を輝かせている。どうも、捕らえられているという風には見えないのだが。
「やっちまえ、アニキ!」
「ガンバレ、カンナ〜!」
 それぞれの応援に答えるかのように二人は動き出した。こうして戦うもの同士、何か通じるものがあるのだろうか。二人とも、それぞれ同時に右ストレートを繰り出した。足場の限られているこの部屋の中では、それが最も有効な戦い方かも知れない。
 だが、その代わり、勝敗は見えている。
「ぐあぁっ……!」
 カンナの拳が男の頬に突き刺さった。男は身をよじり、床を転げる。当然の結果だ。当て身の攻撃は、体重が物を言う。双方決して軽量ではないため、その辺りはほぼ互角かもしれないが、そうなればリーチの差が勝負の決め手となるのは当然の事。長身のカンナの方が有利だ。男の方がカンナより速く攻撃出来るのならまだしも、攻撃そのものもカンナの方が速く、その上リーチも長いとくれば、男に勝ち目などない。
 マリアは冷静な目で戦況を判断し、カンナの攻撃が相手に届くより先に壁から背を離していた。
 男は床を転げ、もんどりうって沈黙する。
「ア、アニキ! アニキまでやられ役っすか!?」
「いやぁ、良い闘いだった!」
 カンナはご満悦の様子で濡れた腕で額の汗や雨水を拭う。しかし、すぐに目つきを変え、アイリスの側の男を睨めつけた。アイリスは、訳も解らず取り敢えずカンナの顔を見上げていた。
「で……」
 パキ、と拳を鳴らし、男の方へ歩み寄る。
「どうしてくれるかなぁ……」
 カンナの不敵な笑みに、男の顔は蒼白になった。
「ま、待ってくれ。俺達は別に何も……」
「大の大人が恥ずかしくないのかよ……」
 カンナは聞く耳を持たない。
「違う。子供が入ってきたんだ。俺達はそんな大それた事しねぇよ。いきなりこの子供が入ってきて暴れたから取り押さえてたら……」
 瞬間、弾かれたようにアイリスは男を見上げる。彼は、今、なんと言ったか。
「こんな子供人質にとって何しようってんだ、こら!?」
「だから、この子供が勝手に……こんな小さな子供を誘拐しようなんて、決して――」
 二人の口論の間で、アイリスは再び震え始めていた。
「――駄目、アイリス!」
 マリアが叫ぶが、アイリスは既に興奮していた。
「みんなでアイリスのこと子供、子供ってぇ〜! アイリス、子供じゃないもんっ!」
 再びの轟音と共に部屋が揺れ、部屋にあるものというものが飛び交う。幸い、人体や座卓、茶箪笥などの比較的重量のあるものまでは動かなかったが、それでも茶箪笥のガラス戸が割れ、床においてあった湯飲みや急須が飛び、壁で砕け、宙空でぶつかり合って弾けた。
「やめなさい、アイリス!」
「アイリス、落ち着け!」
「なんなんだ、このガキは……!?」
 絶叫した男の後頭部に壁にかかっていた額縁が直撃し、男は動かなくなった。
「け……結局俺もやられ役か……」
 それが男の最後の言葉だった。

「アイリス、アイリスっ!!」
 カンナは懸命にアイリスに向かって手を伸ばした。しかし、アイリスは泣きながら宙に浮かび上がり、暴走を続ける。アイリスが喚くたびに彼女の霊力は増していった。
 茶箪笥が揺れる。振動が次第に激しくなり、倒れ、床の上でバラバラに散った。今度は、その部品や中にしまわれていた本、小物までが飛び出す。その本の一冊が弾丸のような勢いで台所の水道にぶつかった。蛇口があらぬ方向へ曲がり、天井へ噴水の如く水を放出する。
 やかんが飛び、窓に激突して硝子が割れた。雨が吹き込んでくる。細かい硝子の破片が飛び交い、かわす事が更に困難となった。
 遂には壁に皹まで入る。
 床で気絶した振りをしている男達は、がたがたと震えていた。あの子供は人間じゃない、化け物だ、と、何度も呟く者もいる。少しずつ部屋の隅へ移動し、体を丸める者、近くを飛んでいた座布団を掴み、頭を覆う者、行動はそれぞれだが、兎に角自分の事で精一杯といった様子だった。他の者にまで構っていられないらしい。
「そんなトコに転がってないで、さっさと出ていきな!」
 もう、気絶した振りなんかしている必要はないのだ。カンナが怒鳴り散らすが、起き上がろうとした瞬間、頭上を飛んだ茶箪笥の板を交わしたカンナ本人に踏みつけられて、男の一人は本当に気絶してしまった。
 部屋全体が回転しているようだった。方向感覚が失われてゆく。目が回る。辛うじて意識を保っていた男達はなんとか脱出しようと懸命に床を這うが、高速で飛び、高速で床に叩きつけられる硝子や瀬戸物の破片に襲われた。アイリスが暴走を始めてから僅か数分の内に、マリアとカンナ以外の全員が意識を失っていた。
「拙いぜ、マリア!」
 足元に転がった人と、頭上を飛び交う物と、上から下に落下する物。二人がその総てかわせているのは奇跡としか言いようがない。
 マリアは唇を噛み締めた。幸い、アイリス自身は、自分の周囲に無意識に霊力で防御壁を作っているため、無傷ですんでいる。が、アイリスの霊力が底をつくまで暴走させておくなどというわけにはいかない。このままでは、アイリスは無事でも、自分達や床にはり付いている男達は血を流す事になるかも知れない。
 そこらじゅうで何かが弾ける音がする。
 天井でゆれてい電灯にも、割れた急須の柄がぶつかった。天井で電気が点滅する。もう、照明も長くはもたない。暗くなっては、かわし切れない。マリアは身を低くした。
「伏せて、カンナ!」
 濡れた体に電気が触れれば、ただではすまない。カンナはすぐさま反応し、床に身を落とす。びしゃ、と、床を浸し始めた水が飛ぶ。
 限界だが、立ち上がれない事にはアイリスを止める事もままならない。
 絶体絶命。
「・・・・・・っ」
 砕け、他のものと同じように飛び散り、宙を駆ける電灯の破片は、マリアの首筋を掠めた。マリアの白い首に薄っすらと赤い血が浮かぶ。

 痛むのは、首のはず。それなのに、突然、何故か胸の傷が痛んだ。マリアは右胸を抑える。痛みが抜けない。
「マリア……?」
「……大丈夫よ!」
 必要以上に強い否定。
 暴走するアイリスの姿にいつも昔の自分を重ねてしまう。その度に、傷が痛む。
 幼いが故の過ち。誰しもある事だが、戦場では決して許されない。そのために深く刻まれた傷。この程度で済んだのが幸い。“隊長”は、その時左腕に深手を負い、死ぬまで不利を引きずる事になった。

 このまま続けていれば、アイリスの胸にも傷が刻まれてしまうかも知れない。
 一生の傷。


 マリアが懐に手を差し込み、銃を引き抜くのとどちらが早かったか。完全に電気がショートし、薄い煙を残して照明は落ちた。
「――アイリス!」
 マリアの声に、アイリスの視線が引きつけられる。その時、一瞬の雷光。アイリスは息を止めた。僅かな光に浮かび上がったマリアの影は、そのこめかみに自ら銃口を突き付け、アイリスを真っ直ぐに見据えていた。
 まるで糸が切れたかのように宙を舞っていた物は落下し、床の上に倒れている男達や、伏せていたカンナの上に次々と降りかかる。だが、先程までの勢いはなかった。
 そして、アイリス自身も力を失い床に向かって落ちた。
「アイリス!」
 カンナは勢いよく立ち上がり、何とかアイリスを抱き止める。
「……マリア……」
 漸く暗闇に目が慣れてきた頃、カンナがマリアの方へ視線を放つと、マリアは銃を胸にしまっているところだった。
「……人の行動を止める有効な手段の一つよ。冷静になるか、沈黙するか、怯む……大抵そうなるわ」
 マリアは至って冷静だったが、カンナは気が気ではなかった。無秩序に物が飛び交い、かわす事もままならない部屋の中で、もし手元が狂ったりなどすれば、銃弾がマリアの脳を撃ち抜いてそれまで、という事にもなり兼ねない。大体、雨でずぶ濡れで、手も滑りやすくなっているはず。絶対的な自信があったのか、万一の事を考えてはいなかったのか。あるいは、マリアはそれすら気に留めていなかったのか。
 カンナの驚愕の表情が見えているのかいないのか、マリアはカンナの方を向いて微笑んだ。
「大丈夫よ。弾丸は入っていないわ……。それより……」
 マリアはカンナの腕の中で小さく震えるアイリスに手を伸ばした。アイリスは、びくりと身体を震わせ、マリアの手を拒絶する。しかし、思いも寄らぬほどマリアの手は優しくアイリスの頬を撫でた。
「……マ……リア?」
「怪我はない?」
「う……うん」
 アイリスが小さく頷くと、マリアは軽くアイリスの頬を叩いた。
「心配させないでちょうだい」
「……心配? アイリスのこと、心配してくれたの?」
「当たり前じゃねぇか、アイリス。アイリスになんかあたらどうしようかって、本気で心配したんだぜ」
「だって……」
 アイリスは、言葉を詰まらせた。
「だって……マリア、アイリスのことキライって……」
「……そう、言った? 私が?」
「子供、キライって……」
「ん……子供は苦手だけど……貴方は、子供? 子供じゃないんでしょう?」
「だって、アイリスのこと子供って言った……」
 どうやら、シャワー室での会話を聞いていたらしい。マリアは首を横に振った。
「言ってないわ。大人じゃないとは言ったけど……」
「それって……」
「私も、大人じゃないのよ。ねぇ、アイリス。人はいつ大人になるんだと思う?」
 アイリスは首を振った。
「あたいもよく解らない……」
 カンナも同じく首を振る。
「ええ、私も。でも……一つは、自分のすることに責任をもてるようになった時だと思うわ」
 アイリスは、瞳を大きく見開いた。
「アイリスの力がどれほどのものか、よく解ったでしょう? これだけの力がどれだけの惨事を起こすかも、よく解った筈よ。だから、アイリス。約束して。二度と人前で霊力を使わないと……。それが、この事態を引き起こした貴方の責任なんだから」
 マリアは、半分は自分に言い聞かせるようなつもりで言った。人の命を殺めた責任をとる事は出来ない。責任などとりようもないような罪を犯したマリアは、死ではなく、生きる事によって償わなくてはならないのだ。自分の持つ力が、得物が、容易く人の命を奪う事はよく解っている。だから、二度とこの銃で人を殺めたりはしない――。

 それは、カンナの心にも静かに響いていた。深く考えもせず、年齢を理由にアイリスを子供と決め付けていた。そして、アイリスに対して、自分達に接する時と同じ態度をとるマリアを責めた。子供扱いされたくないアイリスを、唯一子供として見なかったマリアを。
 マリアの考えている事を理解しようともせず、マリアを否定してばかりいた――。そんな自分に対して、意見はすれど、否定もしなければ責めたりもしなかったマリアが、カンナには自分よりずっと前を歩んでいるように思えた。

 力の脅威を知るマリアだからこそ見せられる真摯な瞳。その瞳で見つめられ、アイリスは唇を固く結んだ。そして、深く頷いた。
「よぉし、あたいも聞いたからな」
「うん!」
 アイリスは、満面の笑みを浮かべた。アイリスの笑顔に、マリアは傷の痛みが抜けてゆくような気がしていた。


 胸の傷は、子供だった自分の愚かさの証。
 幼い自分が情けなくて、思い出したくなくて、幼い子供を拒絶した。
 けれど、アイリスは違う。子供じゃない。
 我侭なアイリス。自分の意見を受け入れてくれない者を嫌った。
 でも……自分で反省できるアイリス。だから、シャワー室まで探しに来た。
 強がりなアイリス。もう何もいらないと思って逃げ出した。
 寂しがり屋なアイリス。それでも探して欲しくて、跡を残していった。
 自分が正しいと思いたかったアイリス。でも、間違っているとも気付いていた。だから、人前で飛んだり消えたりしなかった。
 多分……。

 ね、アイリス……?


 あどけない、天使のようなアイリスの笑顔に、マリアも頬を緩めた。





「で……なぁ、マリア?」
「何?」
 カンナの笑顔は引き攣っていた。
「どうかしたの?」
「あのさぁ……あたいら大人じゃないよな? えっと……責任取れない事もあるよなぁ?」
 部屋を見回す。暗くて見え難いが、雨音に混ざって聞こえる水の噴出す音。足元に転がった男達の影。見る影もないであろう荒れ果てた室内。マリアも顔を引き攣らせた。
「えっと……偶には、偶には、ね、アイリス。“逃げるが勝ち”という場合もあるのよ!」
 額に汗を浮かべるマリアを見て、アイリスはくすりと笑った。
「は〜い!」
 三人は、一瞬にして帝劇に移動していた。


 数時間後、某ギャング団アジトにて、ボスは呆然としていたとかいないとか……





「マリア、カンナ。キライなんていって、ゴメンね。アイリス、二人とも大好きだよ!」

END

[Top]  [小説の間7]




inserted by FC2 system