「ライオン…!臆病ライオン!しっかりしろ!」
マリアの冷たい手が頬に触れて、カンナはうっすらと眼を開けた。薄暗い城の天井と、いやな匂いの煙が立ち上る中に、煤に汚れたマリアの白い顔が見えた。
「ああ…きこりか、あたいは…どうしたんだ?ドロシーは無事か…?」
「大丈夫、かかしがエメラルドの都までつれていったよ。魔女の箒と一緒に」
「よかった…じゃあ、ドロシーは、うちに帰れるんだ…願いが、かなうんだな…」
カンナは弱々しく微笑んだ。体中の傷口から、じくじくと血が流れ続けている。ドロシーをかばって魔女の攻撃をまともに受けたのだ。
「ああ…あたいも、勇気をもらいたかったなあ…こんな、臆病者のままで、死ぬのは…」
カンナが遠い目をすると、マリアは激しく首を左右に振った。
「何を言ってるんだ!おまえには勇気がある!ちゃんとドロシーを守ったじゃないか!魔女と戦って、勝ったじゃないか!」
だが、マリアの声が聞こえないのか、カンナは視線をさまよわせ、マリアを探すように手を延ばした。
「きこり…どこへ行ったんだ…?見えない…暗いよ…寒い…」
「私はここだ!おまえのそばにいるよ!」
マリアはカンナの手をとり、握りしめた。カンナはようやく少し微笑んだ。
「あんたと…行きたかった。あの輝く緑の都に…。そこであたいは勇気をもらって…一生、あんたを守ってやるんだ。そしてあんたは心をもらって…」
カンナは少しさみしそうに口元を歪めた。
「心を手に入れたら…あんたは、あたいのことを、ちょっとか見てくれるかな…。あたいに、気付いてくれるかな…」
小さく呟きながら、カンナはゆっくりとまぶたを閉じた。マリアは、信じられない、というように眼を見開き、頬を震わせた。
「ライオン!死ぬな!一緒にオズへ行くんだ!旅を続けるんだ!…返事をしろ!臆病ライオン!!」
マリアはカンナを抱きしめ、揺さぶった。カンナの首がぐらぐらと力なく揺れる。その時、マリアは、視界が滲んで、頬が濡れているのに気づいた。
「涙…?私は…泣いているのか…?空っぽのはずの胸が…なぜ痛むのだ…?これが、心なのか…?」
濡れた頬を寄せ、マリアはぼんやりと呟いたが、カンナの答える声はなかった。




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