しあわせ
「ねぇねぇレニ、知ってる〜??」 満面の笑顔を浮かべ、いかにも機嫌良さそうにアイリスが目線を合わせる。 「何のこと?」 「あのねえ、レニが人間だって言う証明!アイリス分かっちゃったんだよ!!」 早く聞いてくれといわんばかりの表情できゃあきゃあと騒いでみせる。 僕はアイリスの言葉に思わず訳が分からないと返してしまいそうになったが、言葉を飲んで続きを促す。 「えっとねぇ、さっきマリアに機械の条件って言うのがあるんだって聞いたの。そしたらねぇ、レニはやっぱり機械じゃなかったんだよ!」 うきうきと喜ぶ気持ちを露に、アイリスが早口で言う。それを聞いてボクは漸く、アイリスの言いたいことが理解できた。 以前のボクならば理解の仕様が無かったもの。他人の果報を喜ぶという、大切で優しい行動。 ―――アイリスに教えてもらった、大事な考え。 「機械の要素って3つあって、1つが機械要素って言う歯車とかネジとかの部品が組み込んであることで、もう1つは一定の運動とか動きをする仕組みで、あとの1つは、えっと…」 アイリスの言葉が詰まった時、ふと後ろに影が見えた。 「”有効な仕事をする”、でしょ?アイリス」 「あ、マリアだ〜!もう今回の公演の稽古終わったの?」 僕の後ろに立つマリアに抱き付いて、アイリスが言う。 「ええ、もう今回は心配いらないと思うわ。喧嘩さえ起こさなければね」 苦笑混じりの笑顔で言ったマリアに頭を撫でてもらいながら、アイリスがこっちにまた向き直る。 「あのねレニ、有効な仕事をするって言うのは帝都を守ったり、公演でお客さんに楽しんでもらったりなんだよっ。でねでね、一定の動きとか運動は、レニは一定じゃないでしょ?それと部品も組み込んでないし。機械は、それが全部当てはまってないと機械じゃないんだって」 ”だからレニは機械じゃないんだよ”と真剣に言うアイリスに、ボクは思わず吹き出していた。 「ぷくっ…あっははは…!」 「あっ、レニひどーい!なんで笑うのぉ!?」 「ふふっ、レニったら…」 僕が自分自身を機械だと思っていた頃。 それは、もう二年も前の話ではないか。 あの当時にアイリス自身からすでに教えてもらっていたというのに、彼女はまた必死に教えてくれようとしていたのだ。 (ボクがまだ理解してくれていないと思ったのかな?) そう考えると、なんだか楽しくて、おかしくて仕方が無かった。 「も〜、レニってばそんなに笑わないでよぉ!!」 「だ、だって…っあはは!」 自分のことを考えてくれる人がいる。 自分を心配してくれている人がいる。 自分を理解しようととしてくれる人がいる。 それが、今ものすごく幸せ。 「あ〜、笑い過ぎてお腹が痛いよ。…あ、そうだ。アイリス、これは知ってる?」 「えっ、何が何が?」 「幸せは、機械には感じられないんだよ」
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