三田村組第13回公演『天井』(マーク義理人情提携公演)に行ってきました。寝たきり老人の話なのはわかってたので、重い話だろうなあと思いつつ、ちょっと身構えて見に行きました。メモとってなかったのでシーンが前後してたらすみません;;台詞もうろ覚えでご勘弁。


トタン屋根の、倉庫のようなみすぼらしい部屋のベッドに、老人が寝ている。布団の端は黒ずんでる。引き戸が開き、若い男・寛治が現れ、「見たいっていってたから、彼女を連れてきた」と、垢抜けないかんじの(失礼)女性・洋子を呼び入れる。どうも老人が寝たきりなのをいいことに、そこで事に及ぶつもりだったらしい。老人はむしろ歓迎する様子。「俺のことは気にしないで。冷蔵庫にゼリーがあるから食べろよ」とか勧める。洋子は察して怒って去り、寛治は後を追う。
そこへ警官が二人現れる。不正をして得た大金を、老人の部屋の床下に隠している。「安全な場所だろ?なにせこのじいさん、寝たきりで動けないから。ぼけてるから。あと死ぬだけだもんね。死んだら発見してやるよ。あっごめんごめん言い過ぎちゃった。何、テレビ見たいの?リモコンこのへんに置いちゃおうかな。起きてとれば?ほら起きろよ。起きれない?じゃあこのへんの微妙なとこに置いちゃおうか。ほら、起きてとって見ろよ」と老人をあざ笑う警官。外は雨と雷。警官が明かりを消して去った後に、落雷の激しい音の後、立ち上がってリモコンを握りしめる老人のシルエットが、まるで魔物のように逆光に浮かび上がる。
暗転して、おむつをかえたとおぼしきヘルパーさん・晴美が、マスクをしてバケツを抱えている。あの警官が紹介したという、40くらい?のヘルパーさんはいい人で、老人は彼女に好意を持っている。「死ぬまでに見たいものは」と聞かれ「オーロラかなあ」と答える晴美。「俺が元気になったら一緒にオーロラを見に行こう」「いいですよ」「俺が死ぬとわかってるからそんな簡単に約束できるんだろう」「何言ってるんですか!違いますよ!」。


しかし、老人は本当に起き上がり、動けるようになる。落雷以来、どんどん元気になっていく。タバコを吸い、運動もする。ヤンキーな長男夫婦・健一郎と静香(高乃さん)が、無茶苦茶使えない駄目駄目の若い男のヘルパー・薫を、世間体を気にして寄越したのを追い返す。自分で買い物したりパスポートをとったりもする。長女(末っ子/会計事務員)貴美子は、介護をいやがった長男夫婦の家に老人を戻そうと長男と次男を集めたところ、ケンチキやコーラを自分で買ってきてばくばく食べる老人にみんな呆然。「俺はカナダへオーロラを見にいくから、誰の家にもいかない」「そんな金どこにあるんだよ」「さあなあ」急に猫なで声になる静香。「お父さんに戻ってきてほしいってあたしたちずーっと思ってるんですよ〜」。みんな帰れ!と怒鳴る老人。ドアの外で「持ってる持ってる!絶対持ってるよ!」と騒ぐ長男夫婦。
やがて次男の正志(サラリーマン風)が戻ってくる。「お金、ほんとにあるの?どのくらいあるの?俺、金がいるんだ」ぽつぽつと言う。「もう少し回りくどい言い方ができんのか!……いくらいるんだ」「とりあえず、来月までに400万。とりあえずだけどね」「会社、うまくいってないのか」「うん。もう駄目だと思う」逡巡の後、老人は一喝する。「駄目だ!駄目だ!帰れ!」正志は去り、老人はカナダに向けて英会話番組を見、晴美に携帯で電話して駅前留学に誘う。
使えないヘルパー・薫が「ちゃんと寝てますか?」と聞くと「寝られないんだ。もう寝なくてもいいよ。天井見飽きたし」と答える老人。「これは天啓だ。もう一度生きていいっていう天啓だよ!」エロビデオを見たりスーツケースを買ったり、晴美とのカナダ行きに心躍らせる老人。最初に登場した若い男・寛治に、押し倒してやっちゃえ!酒でも飲ませて!とけしかけ、洋子に無理矢理酒を飲ませて逃げられたりする。
そこへ、晴美とその夫・邦弘が現れる。「晴美は困ってるんですよ!あなたとカナダになんか行きません!」酔ってる邦弘と乱闘になり、暗転の後、警官が来て調書をとっている。酒の抜けた邦弘は弱気だ。老人は晴美をなじる。「俺が元気になったらオーロラを見に行くって約束したよな!俺が死ぬと思ってそんなことが言えるんだろって言ったら、違うって言ったよな!」「かるはずみなことを言ってすみません」土下座する晴美。「パスポートとっちまったよ。誰もいなくなっちまった」一人ベッドに突っ伏して泣く老人。
あの悪徳警官が現れ金の存在をめぐって口論になる。「どうせ不正な金だろう。もっと年寄りにやさしくしておけばよかったな」と老人が啖呵を切ると、凄み笑いで詰め寄る警官。あわやというところで駄目ヘルパーが戻ってきて警官は去る。
やがて長女・貴美子が現れる。「結婚するの。お父さんが、長男夫婦の家にいないと相手の家に変に思われる。だから戻って。私だって静香さんは好きじゃないけど、そもそもお父さんが怒鳴ったり物を投げたりしたからでしょう?それじゃ静香さんだってやさしくなんかできない。そんなだから誰もいなくなっちゃうのよ!」
「なんでみんな俺をもっと大切にしないんだ」布団を抱えて泣く老人の前に、寛治と洋子が現れる。よく見れば、子供たちは現れるたびに服装が違うが、彼らの服装はいつも同じ。「大丈夫だから」「大丈夫ですよ」「ああ、ありがとう。こんななんの関係もない年寄りをいつも訪ねてくれて」呆然とする貴美子。「お父さん何言ってるの?誰と話してるの?」「寛治と洋子だよ。寂しいときにいつも来てくれるんだ」「寛治はお父さんの名前で、洋子はお母さんの名前でしょ!?」寛治と洋子は、辛抱強いやさしい顔で立っている。「大丈夫だから」「大丈夫ですよ」
そこへ、長男が現れる。「…正志が自殺した」



暗転して、老人は再びベッドに寝ている。最初と同じ、おむつをかえてバケツを抱えて出て行く晴美。そこへ正志が現れる。
「お金、ほんとにあるの?どのくらいあるの?俺、金がいるんだ」
「すまないなあ。お金はあるんだが、どこにあるのか、どうしても思い出せないんだ」
「とりあえず、来月までに400万。とりあえずだけどね」
「会社、うまくいってないのか」
「うん。もう駄目だと思う」
「金はあるんだ。なのに場所が思い出せないんだ。すまないなあ。すまない。昨日も来てくれたのになあ」
「いいよ、お父さん。ありがとう。また来るよ」
枕元で微笑んで去っていく正志。
晴美が戻ってくる。「また正志さんが来てくれてたんですか?」「早く金を渡さなきゃいけないのに、どこにあるのか思い出せないんだ。早く渡さなきゃいけないのに」「明日もまた来てくれますよ」「晴美さん、オーロラ見に行こう。オーロラ」晴美はもう答えない。
そこへ、晴美の夫、貴美子、駄目ヘルパー薫、長男夫婦が現れる。どうも長男夫婦の家に引き取ることで話がついたらしい。引っ越しの段ボールなどを持ち込みつつ、「お父さんが元通り動けなくなってほっとした!」「オヤジはなんで突然動けるようになったのかなあ」
晴美が言う。「あの…もしかしたら、最初から寝たきりじゃなかったのかもしれません。時々、食べかけのゼリーとかあるんです。寛治くんが来て食べたって」「寛治って、あの、現実にはいない男でしょう?自分で起きて動いて食べてたってこと?なんでそんなことを?」「そこまでしても、誰かに構って欲しかったんでしょうか」
みんな昼食を取りに出て行く。車のキーを取りに戻った駄目ヘルパーが、老人が息をしていないのに気づく。顔をよせ、見開いた老人の視線の先に目を合わせる。そこは天井だ。駄目ヘルパーは、そうっと老人の顔を手で挟み、ゆっくりと横をむける。
そしてそのまま出て行く。

やがて警官二人が現れる。「やっぱり呆けてるぜ!早く早く!」と、床下から金の詰まった缶を抱えて去っていく。外は降りしきる雪。
そして幕。


すいません私、正志再訪シーンでマジでしゃくりあげました。寛治と洋子の正体がわかるところはなんとか我慢出来たんですが。冒頭の、老人を嗤う警官には真剣に舞台に駆け上がって殴りかかりたかったです。凄絶な演技でした。駄目ヘルパーの駄目っぷりがナイスでした!よくぞここまでイタイ男を演じてくれた!てかんじで。微妙ないたたまれない空気の演出が絶妙でした。そしてヤンキーな長男が、「俺もいつかこうなっちゃうのかなあ」と老人を見て言うシーンが印象的でした。

高乃さんはヤンキー奥さんばりばりなかんじで、コミカル、迫力、したたかさと厚顔さ、いろいろ逞しくイヤな人役を熱演されてました。人間の醜さ、欲望、死と老い、とても重いテーマをアイロニカルに演じた舞台でした。


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